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人事労務の法律教室-126
~試用期間中の従業員に関する差し押さえ通知の対処法~

新たに社員として採用した従業員がいます。現在使用期間中ですが、突然、住民税滞納による給料の差し押さえ通知が会社に届きました。このような従業員は試用期間中を理由に採用を取り消し、自分で処理してもらうようにすることはできるでしょうか?

住民税や国民健康保険料、国民年金保険料を滞納したままにしていると、自治体から本人(納付義務者)に督促状が届き、その督促状の納付期限までに納付しなければ、催告状(書)が送付されます。それさえも放置すると最終的に「差し押さえ」という強制的な手続きが行われることになります。既に在籍している従業員の地方税は特別徴収方式で会社が給料から天引きして納付しているので、このようなことは起きません。

しかし、新たに採用した従業員については、それ以前の納付状況が不明です。新たに従業員を採用し、会社が社会保険の被保険者資格取得手続きなどを行ったことにより自治体がその情報を把握し、住民税や国民健康保険料の滞納者であることが判明するケースもあります。その場合、自治体は滞納している住民税や国民健康保険料を回収するために、その者が入社した会社に対して滞納者の給与収入の一部を直接押さえる通知を送付することがあります。これは、税務署や自治体が、裁判所を介することなく直接納付義務者の財産や給料を差し押さえることができる決まりによるものです。

給料が差し押さえられると、債務者である従業員に給料を支払うべき会社は第三債務者(債務者に債務を負うもの)となり、債務者である従業員に対して差し押さえられた給料を支払うことが禁止され、債務者である自治体に支払う義務が生じることになります。しかし、給料は全額差し押さえられるわけではありません。差し押さえができるのは、給料の額面から①所得税、②住民税、③社会保険料、④10万円、⑤扶養家族1人4万5000円を差し引いた額の20%です。毎月の給与及び賞与から行うことが可能となっています。また、非課税扱いの通勤手当は差し押さえの対象外となっています。

したがって、会社に給料の差し押さえ通知が届いた場合には、面倒ですが、従業員支払うべき給料を従業員と債権者たる自治体に分けて支払うことになります。

次に、このような従業員を試用期間中であることを理由に解雇することができるかについてですが、給料の差し押さえは、従業員の私生活に関することです。会社の義務とは直接的な関係はなく、会社が何らかの損害を直接被るわけではないので、それを理由に試用期間中の者について本採用取り消し(解雇)をすることはできません。試用期間中は解約権留保付労働契約とみなされ、会社側にとっては本採用した場合より雇用契約を解除できる権利を広く保有している状態となります。とはいえ、試用期間だからと正当な理由で事由なく従業員を解雇することはできず、基本的には本採用と同じで、客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由が認められなければ、その本採用取り消し(解雇)は解雇権の濫用と見なされ、無効となります。

また、何らかの懲戒処分を行うことも難しいでしょう。判例では、こうした私生活上の問題に対して会社が懲戒処分できるのは「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、(非違)行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」(日本鋼管事件、最判昭49.3.15)としています。

しかし、私生活の問題で、会社に迷惑を掛けているのは事実ですので、注意・指導を行うことは必要です。また、その従業員の業務内容が経理など金銭を扱う場合には、十分な説明をして配置転換などを検討する必要もあるでしょう。

○今月のポイント!
  • 給料の差し押さえは会社の業務と直接的な関係がないため、それを理由に試用期間中の従業員の採用は取り消せない。したがって、給料の差し押さえ通知が届いた場合は、その給料を従業員と債権者たる自治体に分けて支払う義務が生じる。
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