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Q:退職する従業員が、残っている年次有給休暇を退職日まで消化しています。しかし、先日、転職先となる会社ですでに働いていることが分かり、就業規則違反として即時退職(懲戒解雇)を求めたところ解雇予告手当を求められました。懲戒解雇はできないのでしょうか?
年次有給休暇は、法定の取得要件(全労働日に対する出勤率8割以上)を満たしている限り、労働者の勤続年数に応じて必要な日数(付与日数)を与えなければなりません。また、その時効は付与日から2年となります。労働者は、付与日から2年間はその保有する年次有給休暇について、原則としていつでも請求することができます。これは、退職を控えている労働者であっても、何ら変わることはありません。
たとえ、1週間後に退職する者であっても、現在在職し、法定の要件を満たしている限り、将来における労働契約関係の終了(退職又は解雇)の予定は、その時点で保有している年次有給休暇の残日数の請求権に対して何ら制約することはできません。仮に、退職前1週間にある労働者であっても、まだ雇用関係がありますので、当該労働者は労働する義務を負うと同時に、年次有給休暇を請求して休むこともできます。
次に、年次有給休暇取得中の再就職活動を禁止するなど年次有給休暇の取得目的を制限できるかどうかですが、判例(林野庁白石営林事件、最高裁判所昭和48.3.2)では「年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するか(取得理由)は使用者の干渉を許さず労働者の自由であるとするのが法の趣旨とされている」としています。したがって、労働者には、年次有給休暇の取得にあたって、その取得理由を使用者に申告する義務はなく、仮に申告した場合でも、申告した取得理由と異なる使途であっても、それが事業の正常な運営を妨げる目的でない限り問題がないことになります。
以上の内容を踏まえて今回の相談内容を検討しますと、退職予定の労働者が、年次有給休暇の保有残日数を、残りの在職期間中に消化すること及びその取得期間中に再就職活動等に利用するなどを理由として取得請求を拒否することはできず、それをもって解雇することもできません。
ただし、年次有給休暇の取得期間中に転職先で就業できるかどうかは、その企業及び転職先の就業規則によります。最近は兼業・副業等二重就労も認められる傾向にありますが、まだ一般的な就業規則では、兼業・副業等の二重就労は禁止しているか、一定の条件のもとに許可し認めることを定めている場合が多いです。さらに、許可のない二重就労については、懲戒事由、懲戒解雇事由の対象としているケースがよく見られます。貴社の就業規則も同様かと思われます。
では、二重就労を理由に懲戒解雇できるか否ですが、労働基準法を含め二重就労を禁止する法律はありません。したがって、就業規則等で二重就労を禁止している場合でも、兼業をした労働者に対して、その事情を問わずに解雇などの懲戒処分をした場合は、処分が無効になる可能性があります。
今回の場合、退職の日まで年次有給休暇を取得しており、再就職先が競合他社などで、就業避止や秘密漏えいに該当し、会社に損害を与える恐れがある場合でもない限り、それを事由に解雇(懲戒解雇を含む)することは難しいでしょう。ただし、「許可」を得ていないことに対して、解雇以外の処分を科すことは可能です。また、退職日についての就業規則の兼業禁止規定を根拠に、話し合いによって転職先に就業した日の前日をもって退職日とすることも可能でしょう。特に、雇用保険や社会保険の資格喪失や取得面においては再就職先で二重加入することができませんので、その点においても話し合う必要があります。