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Q:当社では残業する場合は、残業許可申請書に必要な残業時間及び仕事内容を記載する事前許可制で、申請書に記載された時間に基づき残業代を支払っています。しかし、実際は申請した時間より多いとのことで追加の支払いを求められました。支払うべきでしょうか?
働き方改革のもとに、長時間労働の抑制や残業時間削減は、労働者の健康保持のために多くの企業で工夫がなされています。36協定(時間外労働及び休日労働に関する協定)があっても協定違反とならないように、使用者として労働者の時間外労働(残業)については、適正な労働時間管理が求められます。したがって、残業に関しては残業命令制、事前申請による残業許可制や事前申告による承認制を導入している会社が多くあります。しかし、いずれの制度も時間外労働の管理に関しては、残業に対する会社の管理・運用の厳格さが求められます。
会社が厳しい労働管理を行っていたことを評価した裁判例があります。この会社は、残業について就業規則上、時間外勤務は所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないと規定するなど、厳格に運用していました。裁判所はその点を認定して残業代の請求を認めませんでした。(ヒロセ電機事件、東京地判、平25.5.22)。
また、残業禁止命令に係る裁判例もあります。従業員が残業禁止の業務命令が出ているにもかかわらず残業をして、その手当を請求した事件で裁判所は、「使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない。会社は業務命令を徹底させていた」と判断しました(神代学園ミューズ音楽院事件、東京高判、平17.3.30)。
ご質問のように事前の残業許可制を導入している場合、残業許可申請書に記載された時間と実際の残業時間に相違があると、労働者に不平不満が生じる場合があります。残業に対して事前許可制を採用している場合の裁判例では、「超過勤務自体、明示の職務命令に基づくものではなく、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないため、やむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のもの」、「休日出勤・残業許可願を提出させずに残業している従業員が存在することを把握しながら、これを放置していた」等の運用実態を認定して、残業手当の支払いを命じたものがあります(ゴムノイナキ事件、大阪高判、平17.12.1)。また、残業承認制度がある会社で、承認されていなかった残業時間の存否が争われた事例では、裁判所は「会社が労働者に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、労働者の時間外労働が常態化していたことからすると、係争時間のうち、労働者が会社の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制度に従い、労働者が事前に残業を申請し、会社代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくとも会社の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払いの対象となる労働時間に当たるというべきである」として、割増賃金の支払いを命じた事例もあります(クロスインデックス事件、東京地判、平30.3.28)。
残業手当を削減しようという意図ものみをもって就業規則などで規制しても、実際の運用が適切でなければ無意味なものになります。時間外労働の管理は、例えばタイムカード等を活用して客観的データに基づくこととし、次に就業規則等で定めた事前許可制や承認制等の文書提出の徹底を図り、かつ、残業時間をどのように確認するかを定めて、適正に運用することが必要です。今回のケースでも、就業規則に規程するのみで会社が時間外労働の管理を適正に行っていなければ、申請した時間以外の残業についても割増賃金を支払う必要が生じる場合もあります。