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人事労務の法律教室-115
~退職する従業員の年次有給休暇の買い取りについて~

一部事業閉鎖に伴う退職勧奨に応じた従業員に、退職予定日までに年次有給休暇の残日数を消化するよう指示したところ、退職予定日まで出勤すると言って残日数の買い取りを要求されました。この要求に応じなければならないのでしょうか?

年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労の回復を図ることを目的として、所定労働日の任意の労働日について賃金を失うことなく労働が免除される休暇です。労働基準法上、使用者にはその使用する労働者の勤続年数に応じて一定の日数の年次有給休暇を与える義務があります。年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えなければならず、会社がそれを買い取るなどにより付与日数を減じたり、取得を抑制したりすることは禁止されています。行政通達においても「年休の買上げの予約をし、これに基づいて労働基準法39条の規定により請求し得る年休の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法39条の違反である」(昭30.11.30基収第4718号)とされています。したがって、使用者は労働者から年次有給休暇の買い取りを要求されても買い取る義務はないことになります。

ただし、例外的に年次有給休暇の買い取りが認められる場合があります。例えば、年次有給休暇の請求権には2年の時効があり、2年を経過すると請求権が消滅します。したがって、時効によって消滅した日数を事後的に買い取ることは労働者の不利益にならないとして認められています。しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることをルール化することは、買い取りを目的として取得しない労働者が出てくる可能性もあるので避けるべきです。

他にも、労働者の退職時に未消化の年次有給休暇がある場合にそれを買い取ることは認められています。これは、労働者の退職によって年次有給休暇の請求権が消滅してしまうことによるものです。業務の引き継ぎなどのために未消化となる年次有給休暇の日数分だけ労働者の退職日を変更することが可能であれば、退職日をずらしてもらうという方法もありますが、労働者の事情で退職日を変更できないこともあるでしょう。そのような場合は、業務の引き継ぎを優先して残日数分の買い取りに応じることは合理的です。

今回の相談のように、退職勧奨や希望退職募集などにより退職予定日があらかじめ決まっているような場合は、残務整理などを優先しなければならず、年次有給休暇を消化しきれないこともあるでしょう。その場合に、それを買い取ることは労働者に不利益になるものではなく問題ありません。退職勧奨や希望退職などはあくまでも会社から退職に合意を求めているものであり、退職合意に至る過程で残務整理などを優先した場合は、退職日まで消化しきれなかった年次有給休暇を買い取ることは労働者の不利益を減ずるための条件となるからです。

ただし、このケースでも既に業務の引き継ぎや残務整理も完了し、退職予定日までに取り組んでもらう仕事が特段ないような場合は、未消化の年次有給休暇の取得を促進し、再就職活動に利用してもらうなどの対応をすべきです。

なお、時効となった年次有給休暇の買い取り及び前述の退職に伴う年次有給休暇の買い取りなどは、例外的に買い取りが「認められている」ものであり、「買い取らなければならない」という会社に対する買い取り義務が法的に求められているものではありません。したがって、退職予定の労働者に対して業務の引き継ぎや残務整理が完了しているにもかかわらず出勤を求められたりすること、または退職予定の労働者から退職予定日まで出勤する代わりとして年次有給休暇の買い取り要求に応じることは、年次有給休暇の取得を阻害することになり違法となる可能性もあります。したがって、このような場合でも退職予定日までの取得促進を図るべきです。

○今月のポイント!
  • 年次有給休暇の買い取りは原則として禁止されている。
  • ただし、労働者の退職時において、残務整理などを優先することで年次有給休暇を消化しきれない場合は、労働者の不利益にならない範囲で買い取ることが認められている。
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