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人事労務の法律教室-113
~育児休業中の傷病休職および傷病手当金の請求について~

2ヶ月後に育児休業から職場復帰する予定の女性社員が、育児休業中にケガをしたので引き続き休職したいと申し出て傷病手当金を請求してきました。傷病手当金と育児休業給付金は併給されるのでしょうか?また、育児休業中に傷病休職は請求できるのでしょうか?

雇用保険法の雇用継続給付としての育児休業給付金は、出産後も離職することなく、原則として満1歳未満の子を養育するために育児休業している雇用保険の被保険者の生活保障のために支給される保険給付です。保育所待機等一定の条件に該当した場合には、最長2歳まで育児休業期間が延長され、その間は育児休業給付金の支給期間も延長されます。

他方、傷病手当金は、健康保険の被保険者が私傷病で継続して3日間の待機期間終了後、引き続き働くことができずに休業し、賃金の支払いを受けることができない場合に休業4日目から休業期間中の生活保障のために支給される保険給付です。

育児休業給付金および傷病手当金のいずれも、休業期間中の被保険者の生活保障を目的に支給されるものですが、異なる保険制度に基づくものであるため、同時に支給を受けることができ、その金額が調整されることはありません。

厚生労働省の通達(平4.3.31保険発第39号・庁文初第1243号)によれば、「傷病手当金または出産手当金の支給要件に該当すると認められる者については、その者が育児休業期間中であっても傷病手当金または出産手当金が支給されるものであること。なお、健康保険法の規定による傷病手当金または出産手当金が支給される場合であって、同一期間内に事業主から育児休業手当等で報酬と認められるものが支給されているときは、傷病手当金または出産手当金の支給額について調整を図ること」となっています。

次に育児休業期間中における私傷病による休職についてですが、多くの会社では就業規則に休職制度を設け、勤続年数に応じて休職期間の長短を定めています。しかし、そもそも私傷病による休職制度は労働基準法等労働関係法令に基づくものではないため、会社として休職制度を設ける義務はなく、設ける場合でも休職事由、休職期間等については会社の裁量で決めることができます。なお、休職制度は就業規則の相対的記載事項です。常時使用労働者数10人以上で就業規則を定める義務のある会社で当制度を設けた場合には、その休職事由、休職期間等については就業規則に定めて労働者に周知しなければなりません。

ところで、私傷病による休職制度を設けている会社において労働者が育児休業期間中に私傷病による休職事由が発生したり、逆に私傷病休職中に出産による産前産後休業、育児休業、介護休業等が発生したりすることもあります。産前産後休業、育児休業、介護休業は法律上の休業制度であり、それを事由として解雇等の不利益扱いはできません。

他方、私傷病休職は会社の就業規則に基づくものなので、就業規則の定めにより休職期間満了までに職場復帰できない場合は、自然退職とすることも可能です。したがって、休職期間中に産前産後休業、育児休業、介護休業が発生した場合でも解雇ではなく、療養継続期間中の休職期間満了による退職は問題ありません。

以上の点を踏まえると、就業規則に私傷病による休職期間を定める場合、産前産後休業、育児休業、介護休業期間中に私傷病休職事由が発生した場合の取り扱いに関しては、重複期間部分について私傷病休職の請求権は発生しないとするのか、それとも重複期間を超えて休職を要する場合、重複期間分を延長するのか等を定めておく必要があるともいえるでしょう。

また、私傷病による休職期間中に産前産後休業、育児休業、介護休業となった場合に休職期間中を中断するのか否かについても同様です。

○今月のポイント!
  • 育児休業給付金と傷病手当金は、異なる保険制度に基づいているため同時に受給できる。
  • 育児休業中の傷病休職においては、傷病休職は義務ではないため、会社の裁量で決めて就業規則に定めておく必要がある。
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