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従業員を採用したときは、会社に損害を与えた場合などを想定して身元保証人を立ててもらい、身元保証書の提出を求めています。しかし、損害賠償を前提とした身元保証人は立てられないと拒否されました。この場合、採用を取り消すことはできますか?
今回のように従業員の採用に伴い、身元保証書の提出を求める会社があります。身元保証書は、採用された者の学歴、職歴等を含めた人物保証をするためのものです。また、横領や機密漏えい、不法行為などにより故意に会社に損害を与えて損害賠償請求が発生した場合で、本人の支払い能力を超える場合に保証人への請求を可能にすることも目的としています。最近は、従業員が突然出社せずに音信不通になったり、行方不明になったりする事案もありますので、緊急連絡先として身元保証人を連絡先としておくことも必要です。
身元保証人の人数は1名とするのが一般的ですが、会社によっては2名求める場合もあります。例えば、1名は親族、もう1名は親族以外で独立した生計を立てている人などです。しかし、人によっては、身元保証人となる親族などがいない場合もあります。このような場合には、審査はあるものの民間会社やNPO法人などの有料の身元保証人代行サービスを使い身元保証人を立てることもできます。
では、身元保証書の提出を強制できるかというと、労働基準法では身元保証についての定めはないので、法的根拠をもって強制することはできません。他方、会社にも「採用の自由」がありますので、身元保証書の提出を強制できなくても提出しない者を採用しないことはできます。
ただし、採用を内定したものや試用期間中の者に対して、身元保証書を提出しないことを理由として採用を取り消す場合は解雇の扱いとなりますので、正当な理由なく内定取り消しまたは解雇することはできません。したがって、その根拠として就業規則等に身元保証書の提出義務が定められていることが前提となります。
例えば、内定通知書や就業規則の採用の条項に身元保証書を提出書類として定めて、さらには「入社日前日まで提出しない場合は内定を取り消す」または「入社日から2週間以内に提出がない場合には採用を取り消す」などの提出期限も決めておくべきでしょう。
なお、身元保証書の提出を拒否し、解雇が有効となった判例としては、シティズ事件(東京地判/平成11.12.16)があります。この事件では、会社は金銭を扱うので横領などの事故を防ぐために、従業員に自覚を促す意味も込めて身元保証書の提出を採用の条件としていました。裁判所は、身元保証書を提出しないことは「従業員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反または背信行為」と判断し、解雇を有効としています。このように争った場合には、身元保証書の必要性について、従事する業務と身元保証書の関連性が求められることにもなるため、会社としては身元保証書を求める理由を整理しておく必要もあります。
身元保証書を求める場合に注意すべき点として、身元保証期間と損害賠償の限度があります。身元保証期間を定める場合は上限5年、定めがなければ3年とされ(身元保証に関する法律第2条第1項)、自動更新の規定は無効となります。期間満了後も身元保証人を必要とする場合、その都度身元保証契約を締結しなければなりません。また、2020年の民法改正により、身元保証書(身元保証契約)に損害賠償を定める場合には、賠償金の上限(極度額)を定めなければならないことになり、その定めがない身元保証書は無効となります(民法465条の2)。これは無制限に損害賠償責任を負う恐れがあることに対して身元保証人を保護するためのものです。極度額としては裁判例によりますが、100万円から年収分などにすることが多いようです。