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人事労務の法律教室-107
~就業規則の開示とその方法について~

就業規則はありますが、労働者に対して特に開示していません。先日、労働者の一人から就業規則のコピーの交付を求められたので拒否したところ、労働基準法違反であるから訴えると言われました。どのように対応したらよいでしょうか?

就業規則の閲覧・周知をめぐって、労働者とトラブルになることはよくあります。会社によっては、就業規則はあるものの労働者に権利意識を持たせることになり会社の重要な内部文書でもあるので開示していない、というケースも少なくありません。

しかし、労働基準法上、就業規則は労働者への周知義務があり(第106条)、周知することは就業規則が効力を持つための要件です。つまり、労働者が閲覧できる状態にない就業規則はその効力が認められず、就業規則がないのと同じ扱いになります。

就業規則は、会社およびその会社で働く労働者双方にとっての職場のルールであり、相互にそれを遵守しなければなりません。そのルールが周知されていない状況においては、仮に労働者がなんらかの問題を起こしても解雇や懲戒処分ができないことになります。

就業規則の周知方法には、

  • ①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
  • ②書面を労働者に交付すること
  • ③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
と定められており、そのいずれかの方法によらなければなりません(労基則第52条の2)。

具体的には、工場などで建物がいくつかに分散されている場合は、その建物ごとに休憩室などに備え付けるなど、労働者がいつでも閲覧できるようにしておくことです。書面交付で各労働者に就業規則を配布する会社もあります。

また、最近は③の方法として、社内ポータルサイトに就業規則を掲載し、労働者がいつでも見られるようにしている会社もあります。このような方法で、労働者に周知しておくことで、会社として就業規則の遵守を求めることができ、違反者に対しては何らかの懲戒等の処分もできることになります。

なお、2024年4月から、労働条件の暗示に関するルールが改定されます。それに伴い、就業規則の周知に関して次のような要件が追加されたことに注意しなければなりません。『就業規則等の周知については、平成11年3月31日付け基発第169号「労働基準法関係解釈例規の追加について」において、「就業規則等を労働者が必要な時に容易に確認できる状態にあることが『周知させる』ための要件である。」と示しているところであるが、具体的には、使用者は、就業規則を備え付けている場所等を労働者に示すこと等により、就業規則を労働者が必要なときに容易に確認できる状態にする必要なものであること』(令5.10.12基発1012号)

ところで、今回の「就業規則のコピーの要求があった場合にそれに応じなければならないか」についてですが、会社にそのような義務はありません。ポータルサイトに掲載していてもコピーできないようにしている会社もあります。コピーに応ずるか否かは会社の判断です。コピーに応じても外部持ち出し禁止とすることもできます。

なお、退職した従業員から、残業代の未払い請求のためや退職後の競業避止義務の確認のために就業規則の交付や閲覧を求められる場合があります。このような場合の対応についても、退職後に会社の就業規則の閲覧を認める法律上の義務はありません。すでに退職している以上は、その会社の労働者ではないので、労基法上の周知義務の対象ではないと考えられるためです。交付または閲覧要求に応じるかどうかは会社の判断ということになります。

○今月のポイント!
  • 労働基準法上、就業規則は労働者に周知する義務があり、労働者が閲覧できる状態にない就業規則は効力が認められない。
  • ただし、就業規則のコピーに応じる義務はなく、会社がその可否を判断できる。
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