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人事労務の法律教室-101
~試用期間中の私傷病による休職者への対応について~

現在、試用期間を2ヶ月経過した試用期間中の労働者から体調不良で2週間程休職したいとの申し出がありました。当社の就業規則に休職の定めはなく、労働者に休職する権利はありません。休職の申出を拒否して労務提供不能で解雇してもよいでしょうか?

私傷病による休職制度を設けている会社は多いですが、法的には必ず設けなければならないものではありません。したがって、休職制度を設けるか否か、また、設ける場合でもその適用対象労働者、適用条件(勤続年数など)をどのような基準にするかは会社の裁量です。

休職制度のある会社でも、今回のように試用期間中および勤続期間が短い(勤続1年未満など)労働者を適用対象外とするのが一般的です。しかし、このように試用期間中の者、または勤続年数の短い者が私傷病で中長期的に労務不能となった場合で休職制度がない場合、または休職制度があっても適用対象外となる場合にどのように対応するべきかが問題となることがあります。

仕事が忙しいときに社員に休日出勤を命ずる場合があります。労働基準法上、使用者が労働者に対して少なくとも週1回(または4週間を通じて4日以上)の休日を与えなければなりません(第35条)。これを「法定休日」といいます。また、完全週休2日制を採用している場合は、法定休日を上回る「法定外休日」を与えていることになります。

そもそも労働契約とは、労働者が会社の指揮命令に従って健全な労務提供をし、会社がその対価として賃金を支払うという契約です。私傷病が原因で仕事ができなければ労働契約上の債務不履行となりますので会社はその労働契約を解約(解雇)できます。しかし、労働者を解雇するにあたっては、労働契約法第16条に基づき「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして解雇は無効となります。

試用期間は「解約権留保付き労働契約」といい、会社は試用期間中に採用した労働者の適格性などを含めて本採用するか否かを判断し、本採用しないときは、試用期間中に解雇または試用期間満了後に本採用拒否(=解雇)することになります。試用期間中は解雇権が留保されているので、本採用後の解雇よりは労働契約解消に係る使用者としての裁量権は広くなるものの、労働契約法第16条に基づき解雇の有効性が問われます。

試用期間中に労働者が私傷病のために一定期間、継続的に欠勤するということは、試用期間中に習得するべき業務知識が習得できないということにもなります。したがって、解雇が認められやすいともいえます。しかし、私傷病による欠勤とはいえ、一時的に休ませることにより復職し、問題なく通常業務ができることが見込まれる場合には、試用期間中における労務不能を理由に即座に解雇すると不当解雇と判断される可能性が高くなります。

また、就業規則上において休職制度を設けている会社であっても、就業規則に解雇の事由として「精神または身体の障害により、業務に耐えられないと会社が認めたとき」などと定められている場合は、それを根拠として解雇することができることになります。

しかし、私傷病により一時的に欠勤していることだけで労働契約上の債務不履行を理由に解雇が有効となるものではありません。1~2ヶ月程度の休業によって療養をすれば職場に復帰できることが明らかな場合は、解雇が認められないと判断されることもあります。また、一定期間療養すれば元の職務に復帰できなくとも、配置転換や職務変更をすることで早期に職場復帰が見込まれる場合には、解雇無効となる可能性が高くなりますので慎重に検討しなければなりません。

私傷病での労務不能による解雇は、労働紛争に発展することが多いので、労務不能となる期間がどの程度の長さか、一部でも就労可能なのかどうかなどを総合的に判断する必要があります。

場合によっては、療養中の労働者に退職の意向を確認しつつ退職勧奨を実施し、一定の条件を基にした退職合意による退職の選択が可能であると提示することなども検討すべきでしょう。

○今月のポイント!
  • 私傷病による休職は、労働契約上の債務不履行にあたるため解雇はできる。
  • ただし、労働契約法第16条の適用によって不当解雇になる可能性があるため、休職期間の長さや配置転換・職務変更による職場復帰の見込みなどを踏まえて慎重に判断する必要がある。
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