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人事労務の法律教室-99
~セクハラ問題が生じた時の対応について~

女性社員の1人から、嫌がっているにもかかわらず、同僚の男性社員から執拗に交際を迫られて困っているとの相談がありました。男性社員への事実確認も取れたので、男性社員に対して配置転換を命じましたが拒否されています。どのように対応したらよいでしょうか?

相手の意に反して執拗に交際を迫る行為は、明らかにセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)に該当します。このようにセクハラが起こった場合の会社の取るべき対応としては、まず迅速に事実確認を行うことです。被害者および加害者双方から事情を聞き、場合によっては同僚などの第三者への聴取も必要となることがあります。その上でセクハラの事実が確認された場合、さらなる被害の拡大防ぐためにも企業は被害者と加害者のそれぞれに適切な措置を講ずる必要があります。具体的には被害者に対しては精神面のサポート、加害者から引き離すための配置転換などが求められます。一方、加害者に対しては行為の程度に応じて就業規則で定めた懲戒処分に該当する措置などの対応が必要となります。

職場におけるセクハラが原因となって労働者が精神疾患を発症した場合などには、加害者だけでなく、使用者も使用者責任(民法第715条)および安全配慮義務違反による債務不履行責任により損害賠償を請求されることもあり得ます(民法第415条)ので、適切な対応をしなければなりません。

被害者および加害者への適切な措置の具体例として、まず「被害者と加害者の隔離(切り離し)」があります。セクハラの事実確認ができたからには被害の拡大を防ぐためにも、被害者が加害者と顔を合わせることがない職場環境にしなければなりません。そのためには、加害者または被害者のいずれかを他部署などに配置転換することを検討する必要があります。その際、被害者を配置転換の対象とするのは、本人がそれを希望する場合でない限り、セクハラの相談を行ったことなどを理由とした「不利益な取り扱い」ともなり得ますので、原則として行うべきではなく、対象は加害者とすべきです。

通常、正社員であれば、会社は広く人事異動として配置転換を命ずることが可能です。従業員は、正当な理由なくそれを拒否することができず、それを拒む場合、業務命令違反として懲戒処分を行うことも可能です。

ここでいう「正当な理由」とは、勤務地や職種限定で採用されている場合や、配置転換や転勤による従業員の不利益が大きい場合、業務上の必要性がないもの、不当な動機によるものなどです。

なお、人事異動はあくまでも業務上の必要性が前提となります。今回のような不祥事を起こしたことを理由とした人事異動は「懲戒処分」の一つとなりますので、就業規則の懲戒処分規程に則った手続きに従う必要があります。

今回のケースのように、加害者たる社員もその事実を認めているのであれば「配置転換の業務上の必要性」については、職場環境の維持等を理由に合理性が認められる可能性が高いといえます。

したがって、セクハラに対する事の重要性を十分に認識させた上で配置転換の必要性を理解させるべきでしょう。それでも配置転換命令を拒否する場合には、職場秩序維持のために普通過去を含めた厳重な処分を検討すべきでしょう。

○今月のポイント!
  • セクハラの加害者は、会社の人事異動命令を正当な理由なしに拒否することはできない。
  • 拒否する場合は業務命令違反となるため、就業規則の懲戒処分規程に則って懲戒処分を行うことが認められる。
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