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人事労務の法律教室-98
~定期健康診断の未受診者への対応について~

当社では、入社時のほか、毎年7月に定期健康診断を実施していますが、仕事が忙しいという理由で昨年の健康診断を受診していない者がまだ数人います。受診を命じたところ、今年の定期健康診断での受診でよいと言いますが、問題ないでしょうか?

会社には、使用者として労働者に対して、安全で、かつ、健康な状態で働かせなければならないとする「安全配慮義務」があります。したがって、会社はたとえ労働者が1人であっても、労働安全衛生法に基づき、1年以内ごとに1回(危険または有害業務、深夜業については6ヶ月以内に1回)、定期的に、その使用する従業員に対して健康診断を実施しなければなりません(安衛法第66条、則第44条)。

この定期健康診断の実施によって、自覚症状の有無にかかわらず定期的に労働者の健康状態を確認し、体に異常がないか、病気の兆候がないかを法定診断項目に基づいて把握することができ、なおかつ仕事に対しての配慮もできることになります。労働者に定期健康診断を受診させていない会社に対しては、50万円以下の罰金が科せられることになります(同法第120条)。

なお、「定期」とは、毎年同じ時期に行うということです。原則として、前回の受診からの間隔が1年を超えないようにしなければなりません。従業員が1年以内ごとに1回の定期健康診断を受診せずに、会社もそのことを放置(黙認)していて、万一、過重労働等が原因で従業員が病気を発症したり、病状が悪化したりすると、会社は安全配慮義務を怠っていたと判断されてしまいかねません。訴訟に至った場合には、不法行為責任を問われて損害賠償を請求されることにもなり得ます。

したがって、会社としては、仕事が忙しいなどの理由で受診しない労働者をそのまま放置するのではなく、受診義務があることを説明し、前回の受診から1年以内に受診をさせなければなりません。

労働安全衛生法では労働者に対しても、使用者の実施する健康診断を受診する義務を課しています(同法第66条5項)。違反したとしても労働者本人に特段の罰則はありませんが、会社は使用者として定期健康診断を受診しない労働者に対して、定期健康診断の受診命令に違反したとして、懲戒処分を行うことができます。

受診は業務命令の一つでもあります。したがって、正当な理由もなく受診しないことについて、何らかの処分もせずに放置していると、他の従業員も影響を受けて健康診断を受診しない者がさらに出てくる可能性もありますので、このような厳しい処分も必要と言えます。

なお、懲戒処分を検討する場合は、就業規則に定期健康診断の受診義務があること、受診が業務命令であることなどを理由として、受診拒否が懲戒処分の対象となることを規定し、労働者に周知しておく必要があります。懲戒処分を科すにあたっては「解雇」までの処分は重すぎることになります。処分例としては、出勤停止未満の処分が一般的で、譴責や戒告、重ければ減給とする例もありますが、処分を科すことによって会社としてやるべき措置は講じていたということにもなります。

また、会社は、定期健康診断を受けて、診断の項目に異常の所見があると判断された労働者に関して、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴かなければならない義務が課されています(同法第66条の4)。そして、この医師または歯科医師の意見を勘案し、その必要性があると認められるときは、その労働者の実情を考慮しながら、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずる必要があるほか、作業環境測定の実施、その他の適切な措置を講じなければならないとされています(同法第66条の5)。

○今月のポイント!
  • 会社は、労働者に1年以内に1回(危険または有害業務、深夜業については6ヶ月以内に1回)の定期的な健康診断を実施する義務がある。
  • 義務を怠った場合は50万円以下の罰金が科せられる。
  • また、受診を拒否した労働者は懲戒処分の対象となる。
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