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人事労務の法律教室-94
~株式譲渡によるM&Aでの従業員の処遇について~

当社では株式の全部を譲渡することによるM&Aが行われることになりました。このような場合、現在いる当社の従業員が解雇されたり、労働条件が悪くなりトラブルになることはあるのでしょうか?

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、「企業の合併・買収」のことで2つ以上の会社がひとつになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)をいいます。つまり、企業または事業の全部ないし一部を他の会社への移転を伴う取引を指し、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。M&Aのスキームには、株式譲渡や事業譲渡、会社分割や株式交換などいろいろありますが、最も多いのが株式譲渡です。売り手企業(譲渡企業)の株主が株式を買い手企業(譲受企業)に売却して株主の地位を譲り、売り手企業が現金を受け取ることで、買収を成立させることになります。

株式譲渡は経営権の譲渡なので株主の構成が代わるだけで、売り手企業の持つ事業や有形資産、従業員などの無形資産、権利や義務を残して事業を継続することができます。したがって、使用者が代わることにより、従業員との雇用契約は新たに締結し直すことになりますが、従業員の雇用は維持され、労働条件等に特段の変化が生じるわけではありません。M&Aにより、経営者が交代することは、従業員を解雇する合理的な理由にはなりませんので、それを理由に従業員が解雇された場合には、原則として、解雇権の乱用となり当該解雇は無効となります。

したがって、株式譲渡の場合、事業譲渡とは異なり、労働契約を承継する際に従業員一人ひとりの同意は必要ありません。買い手企業からしてみると、引き継ぎたい従業員、引き継ぎたくない従業員を区別して選ぶことができないとも言えます。

また、M&Aにより、経営権が代わるので、雇用契約は締結し直すことになりますが、売り手企業の労働条件と買い手企業の労働条件に差がある場合には、何らかの調整が必要となります。一般的には、買い手企業の方が資本力もあり、企業規模も大きいので、労働条件が良い場合が多く、譲渡されたことにより売り手企業の従業員の給与などの処遇面は改善される可能性が高いとも言えます。しかし、買い手企業の労働条件が売り手企業より低い場合には、それに合わせることになると「労働条件の不利益変更」という問題が発生します。このような場合は、人事制度や賃金制度に関して調整をして、従業員の個別同意を得ることが必要となります。

なお、原則として、株式を譲渡することによるM&Aにより、従業員が解雇されることはありませんが、株式譲渡に反対であったことや、買い手企業の社風などになじめないなどの理由で売り手企業の従業員が離職し、人材が流出する可能性はあります。また、譲渡後に買い手企業の業績の悪化や経営の合理化等により、希望退職募集や整理解雇等を行って人員削減におよぶこともあります。

整理解雇にあたっては、その要件とされている

  • ①人員整理の必要性がある(会社の運営に関する状態が悪化しているなど)
  • ②解雇回避努力義務を履行した(新規採用の中止や希望退職者の募集などの努力を行った)
  • ③被解雇者の選定に合理性がある(勤務成績などの合理的な基準に沿って選定している)
  • ④手続きに妥当性がある(労働協約に従ってる)
などを問われることにもなり、そう簡単ではありません。

このように、株式譲渡によるM&Aの場合には、従業員としての地位や労働条件は、事業譲渡によるM&Aより保全される面が多いと言えます。

○今月のポイント!
  • 原則として、株式譲渡によるM&Aで従業員が解雇されることはなく、地位や労働条件においても保全される面が多い。
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