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人事労務の法律教室-92
~懲戒解雇による即時解雇と解雇予告手当~

小売業を営んでいますが、店舗の従業員が数年にわたって売上金の一部を着服していたことが判明しました。懲戒解雇として即刻解雇を通知したところ、その従業員から解雇予告手当の支払いを要求されました。支払う必要はあるのでしょうか?

懲戒解雇とは、労働者が著しく職場秩序を乱したり、会社に対する背任行為や信用失墜行為などを犯した場合の最も重い制裁処分です。会社の就業規則にもよりますが、多くの場合は退職金制度があってもその支給を受けることができないことも多く、失業手当は会社都合による解雇でも重責解雇となり給付制限(3ヶ月)を受けます。所定給付日数も自己都合退職と同じ日数になるなど不利益を受けることにもなります。

労働契約法では「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」(第15条)と定めています。したがって懲戒解雇する場合には、その事由となる行為が懲戒解雇に相当する「客観的に合理的な理由」に該当し、かつ、懲戒解雇が社会通念上相当性のある処分かどうかを慎重に検討しなければなりません。

今回のケースは、「売上金着服」で、それも数年という長期間にわたっていることを鑑みれば、業務上横領罪として刑事罰の対象となり、違法性、悪質性の高い行為として、懲戒解雇は有効となる可能性がかなり高くなります。これまでの判例をみると業務上の横領は金額が多いほど、懲戒解雇を有効としているものが多くありますが、少額だからといって懲戒解雇が無効となるものでもありません。

多くの就業規則では、懲戒解雇=即日解雇としていますが、懲戒解雇も「解雇」の一つです。労働基準法では「労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」(第20条第1項)と定められており、懲戒解雇の場合でも即日解雇する場合には解雇予告手当を支払わなければなりません。ただし、例外があり、今回の事例のように「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には、労働基準監督署の認定を受けて解雇予告または解雇予告手当の支払いなく即時解雇することができます。「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」とは、労働基準法第20条(解雇の予告)の保護を与える必要のない程度に重大または悪質なものが認定の対象となり、行政通達では①盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合、②賭博、風紀紊乱等による職場規律を乱す行為があった場合、③重要な経歴を詐称した場合、④原則として2週間以上正当な理由なく無断欠席し、出勤の督促に応じない場合などを挙げています(昭23.11.11基発1637号、昭31年3.1基発111号)。

解雇予告除外認定を受けるには、「解雇予告除外認定申請書」に、「労働者の責に帰すべき事由」が明確となる疎明資料や就業規則などを添付して所轄の労働基準監督署に届け出ます。これを受けて、労働基準監督署が直接本人に事実確認を行うことなどにより判断します。なお、労働基準監督署の解雇予告除外認定決定は、労働者に予告手当を支払わずに即時解雇するための手続きの一部にすぎず、懲戒解雇の有効性を担保するものではありません。

したがって、認定決定を受けた後に解雇予告または予告手当を支払わずに即時解雇した場合も、手続き面においては適正なものですが、懲戒解雇の「正当性」は保証されていないことに注意が必要です。

○今月のポイント!
  • 懲戒解雇でも即日解雇する場合は、解雇予告手当を支払わなければならない。
  • ただし、横領や窃取、賭博など「労働者の責に帰すべき事由」に基づいた解雇の場合は、
    労働基準監督署の認定のもとで解雇予告または解雇予告手当の支払いなく即時解雇できる。
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