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私傷病で長期休職が見込まれている社員の社会保険料の本人負担分は会社が立て替えなければならないのでしょうか?
社員が私傷病の療養のため休職している場合であっても、社会保険(健康保険及び厚生年金保険)の被保険者となっている社員は、被保険者資格が継続していますので、社会保険料の負担は会社及び社員の両方に発生します。休職期間中であっても支払うべき給与がある場合には、そこから社員負担分を控除することはできますが、休職期間が長期化して支払うべき給与がない場合、社員負担分の保険料をどうするかという問題が起こります。
社会保険料の納付義務は、「事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う」(健康保険法第161条、厚生年金保険法第82条)と定められており、事業主にあります。
また、「事業主は、被保険者に支払う報酬から控除した被保険者の負担する保険料の額のいかんにかかわらず保険料全額の納付義務を負うべきものである」(昭和2年2月14日保理第218号)」、「被保険者の負担する保険料を被保険者に支払う報酬から控除し得ないことがあっても、納付義務は免れることはできない」(昭和2年保理第713号)とされております。
したがって、休職中の社員に支払うべき給料がない場合であっても、会社は社員及び会社の両負担分の合算額を納付しなければなりません。このような場合、一般的には、社員負担分の保険料を立て替えて納付し、その立替分については、毎月、会社の口座への振り込みなどにより返還してもらうことになります。しかし、休職期間中に回復せず、万が一退職となってしまうなど、立て替えた社会保険料を回収できない事態に陥ることもあります。このような事態に備えて、休職期間中の社会保険料の取り扱いにどのようにするかを就業規則などに定めておくか、休職前に対象となる社員と支払い方法を確認し、決めておくことが必要です。
ところで、社会保険に加入している社員が私傷病で休職している間については、医師が労務不能と認めた期間であって、会社からの賃金が支払われていない場合には、健康保険から傷病手当金が支給されます。支給期間は、支給開始日から通算して1年6ヶ月間です。この傷病手当金は、会社が代理受領することができます。そのためには傷病手当金支給申請書にある「受取代理人」の欄に、被保険者たる社員から事業主に受領を委任することを記入してもらう必要があります。会社が代理受領することで、一旦会社の指定口座に振り込まれた休職中の社員に給付されるべき傷病手当金から、社員負担分の社会保険料を控除して、その差額を本人名義の口座に振り込むことで、立て替えた保険料の回収漏れを防ぐことができます。
なお、健康保険法では、「事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる」(第167条第1項)を定めています。傷病手当金は報酬ではないので一方的に控除するのはトラブルの原因となります。したがって、休職中に支給される傷病手当金から社員負担分の社会保険料を控除することについての同意(合意)書を取っておくことです。また、保険料を控除した後に休職中の社員にその差額を振り込む際は、内訳を記した通知書を送付するなどの対応も必要でしょう。