M&Aロゴ

人事労務の法律教室-89
~勤務時間の算定~

当社では、残業時間数の計算や遅刻・早退の時間数の計算において、給与計算の便宜上、日々15分未満は切り捨て、15分以上は30分に切り上げる処理をしていますが、従業員から残業時間数が違っており、残業手当が合わないと言われました。

賃金計算上、労働時間の端数処理の仕方は問題となるところでもあり、労働基準監督署の調査においても間違った処理をしていて是正勧告を受けることが多い点でもあります。

労働時間の計算は、賃金に直接影響します。ご相談のように1日単位で15分未満を切り捨て処理していると、例えば、1時間10分の残業をしても1時間の残業として処理されることになり、10分の残業代が未払いとなります。一賃金支払期間において10分の残業が10日あれば100分(1時間40分)の残業代が未払いとなってしまいます。

労働基準法では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」(第24条第1項)と定めています。労働時間に相応する分の賃金はその全額を支払わなければならず、このように切り捨て処理をすることは「賃金の全額払い」に反することになり違法となります。

したがって、原則として、労働時間は1分単位で管理し、賃金計算をしなければなりません。ただし、例外として、行政通達(昭63.3.14基発第150号)により、「1ヶ月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」認められています。このように、労働時間の端数処理が認められるのは「時間外労働、休日労働、および深夜労働」に係るものに限定されており、かつ、一賃金計算期間の合計時間数についてです。「時間外労働、休日労働、および深夜労働」に係る労働時間数といえども日々の端数処理は認められませんので、日々は1分単位で管理しなければなりません。

遅刻・早退についても同様です。労働者の自己都合で欠勤、遅刻、早退があった場合、その労務の提供がなかった時間に相当する賃金を差し引くことは「ノーワーク・ノーペイの原則」により問題ありません。しかし、例えば5分の遅刻を15分として処理することは、実際に労務の提供がなかった時間を超えて賃金カットが行われることになります。このような処理をすることは、5分の遅刻に対して労働時間10分の賃金を支払わないことになるので、前述の労働基準法第24条に基づく賃金の全額払いに違反することになります。

なお、行政通達(昭63.3.14基発第150号)では「遅刻、早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、法第91条に定める減給の制裁に関する規定の適用を受ける」としています。つまり、遅刻、早退の時間を常に切り上げることは、労働基準法第91条の減給の制裁として取り扱うことになり、その旨を就業規則の懲戒処分の規定として定めておかなければなりません。しかし、減給の制裁には「1回の額が平均賃金の1日分の半額以内、総額が一賃金支払期間の賃金の総額の10分の1以内」という制限があります。これは減給の制裁による賃金カットに制限を設けないと、労働者の生活を脅かす恐れがあることによるものです。

したがって、遅刻回数が多い場合でもその範囲内での処分となります。例えば、就業規則で懲戒として「1ヶ月の間に遅刻を3回した場合は、減給の制裁をすることがある」との規定があれば、一賃金支払期間における遅刻の合計時間数を超える分の賃金をカットすることができます。

○今月のポイント!
  • 時間外労働等の労働時間数の端数処理は認められない。
  • 遅刻、早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、法の適用を受ける。
Copyrights 2008-2009 M&A Allright reserved.