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人事労務の法律教室-83
~自宅待機で結果として出社に至らなかった場合の賃金~

当社の休日は、週2日でシフト制となっています。先日、セールで人手が足りないことを予測して、店の近隣に住むパート2名を万一に備えて自宅待機させましたが、結果として出勤させずにすみました。自宅待機時間分の賃金を支払うべきでしょうか?

ご相談のケースのように自宅待機が発生しやすい職種には、医師・看護師などの医療業務、IT系のシステム保守・運用、機械系の保守・運用業務などがあります。このような業務に従事する労働者は、緊急時のための呼び出しに備えて自宅待機をさせることも珍しくありません。このような待機時間に対して賃金を支払う必要があるのか否かは、自宅待機をしている時間が法的にみて労働時間といえるか否かということになります。

労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間」をいい、その判断は「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれた者と評価することができるか否かにより客観的に定まる」とされています(最高裁第一小法廷平成12.3.9)。自宅待機に関する裁判例では、ガス管からガスが漏出した際に復旧工事を担当する会社が、修理依頼がある場合に備えて社員に対して、シフト制により工事対応を義務付けていた際のシフト担当の労働時間制および待機時間について時間外手当の支払いをめぐり争われたものがあります。判決では、シフト担当時間に比較して実労働時間が極めて少なかったこと、労働者はシフト担当時間に寮の自室でテレビを見たりパソコンを操作したりするなどし、かつ、外出の規制もなかったことなどの事実を認め、「原告ら従業員は高度に労働から解放されていたとみるのが相当である」とし、労働時間性を否定しています(大道工業事件 東京地裁H20.3.27判決)

業務対応のための自宅待機の場合、呼出しに備えて出勤できる場所にいなければならないことや、外出する際は連絡用の携帯電話を持つ必要があること等の一定の制限を設けることがあります。しかし、そのことのみでは、使用者の指揮命令が及んでいるとまでは評価されません。待機時間とはいえ、自宅待機の場合であっても、実際に呼び出されない限り、基本的にそのような過ごし方をするかは労働者の自由です。そのため、このような制限があっても基本的には自宅待機の時間は労働時間には当たらないと解されています。

しかし、これも場所の拘束や行動制限が著しくあるという場合は、労働時間に該当することもあります。例えば、「緊急出勤の要請があった場合に30分以内に現場に到着しなければならない」として、「絶対に自宅から離れないこと」などとする場合は拘束性が強いとして労働時間に該当する可能性が高くなります。

他方、例えば、労働者が事業所等で、接客等のために待機し、いつでも顧客対応できる状態にあるような場合の待機時間は、使用者の指揮監督が及んでいると判断されますので、その待機時間は労働時間に当たり、待機時間とはいえ、その時間については「手待時間」として時間相当の賃金支払い義務が発生します。

以上のように、待機時間が賃金が発生する労働時間に当たるかは、待機の個別具体的な事情を踏まえ、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか」によって結論が異なるため、注意しなければなりません。なお、一般的に労働時間とはみなされない待機時間に対しては、もちろん会社からの手当などの支給は必須ではありません。しかし、労働時間には該当しないが、ある程度の拘束をしている点を勘案し、法的に臨銀支払義務はないものの何らかの手当の支給などを検討するほうが、労使双方協力し合ってお互い気持ちよく仕事をするために必要なことではないでしょうか。

○今月のポイント!
  • 使用者の指揮命令がおよんでいるか否かで判断され、待機時間は場所の拘束や行動制限が著しい場合は労働時間に該当し、賃金支払義務が発生することがある。
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