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人事労務の法律教室-82
~複数事業所で働く従業員の労災認定~

従業員が自宅で急性心筋梗塞となり、病院で死亡しました。当社における残業時間は、月10時間程度でした。しかし、ご遺族から他社でも就労していて働きすぎが原因との医師の診断もあるので、労災保険手続きをして欲しいとのことでした。

今回のような場合、急性心筋梗塞による死亡を過重労働によるもの(いわゆる過労死)として労災申請するには、少なくとも確認しなければならないことが2つあります。まずは、その死亡労働者に関して、心筋梗塞に関連する既往歴があったかどうかです。過労死とは、脳血管疾患(脳内出血、脳梗塞、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症)または虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤)が長時間労働など業務の過重負荷により、自然的経過を超えて著しく憎悪して発症し、死に至ることをいいます。しかし、既往歴基礎疾患として高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等を抱えていた場合、必ずしも労災認定が受けられるとは限りません。

次に、貴社以外の事業場でも就労していたならば、貴社での労働時間のみで判断することはできませんので、他社での労働時間がどの程度であったかということも重要です。労働時間の長さだけが過労死の原因とは言えませんが、長時間労働は過労死要員の最たるものです。過労死ラインでは、

①発病前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働がある場合は、②発病前2ヶ月から6ヶ月のいずれかの期間で月平均おおむね80時間を超える時間外労働がある場合、過重労働となり、発病との因果関係が強いと判断されます。

この労働者の貴社における月の時間外労働時間が10時間程度であれば、①および②の過労死認定基準に達するものではありません。しかし、労働時間は、「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」(労働基準法第38条第1項)こととなっています。また、令和2年9月より労災保険法が改正され、1つの事業所で労災認定できない場合であっても、事業主が同一でない複数の事業所の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定できる場合は、必要な保険給付が受けられることとなりました。例えば、A事業所で週40時間、B事業所で週25時間勤務している複数事業労働者が、脳・心臓疾患を発症した場合、これまでは、個々の事業場ごとに業務起因性(業務上の負荷と災害との相当因果関係)の判断が行われるため、A・Bいずれかでの時間外労働実績が労災認定の長時間労働の目安(①および②)を超えない限り、労災として認定されませんでした。しかし、複数事業所労働者についてはA・Bの労働時間を合算して捉えることとなるため、合計で上記目安を上回る過重労働を行っていた場合は、労災認定される可能性が高まることとなります。したがって、貴社の使用する労働者が副業をしていることを事業所が知らなかった場合でも、他社での労働時間も通算して、過重労働が認められると、労災として認定を受けられる可能性があります。

労災となるか否かは労働監督基準署の判断によるところとなりますが、その請求手続きについては、原則、複数の事業場の各事業所を管轄する労働基準監督署のいずれかに労災請求することとなっています。今回のように遺族から労災の請求があった場合は、貴社としては死亡労働者の自社における就労状況などの証明をしなければなりません。その後、労働基準監督署より労働時間等に関する確認など、審査が行われることになります。なお、労災保険の保険給付の支給申請の当事者は、労災事故に遭われた労働者またはその遺族です。会社は労災保険の請求当事者ではありませんが、必要な協力をしなければなりません。

○今月のポイント!
  • 令和2年の法改正により、複数の事業所で働く労働者については、労働時間を合算して総合的に過重労働が認められれば労災認定を受けられる可能性があります。
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