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タクシー会社や運送会社にとって、運転業務に携わる場合には特有の運転免許は必須です。このように会社の事業や従事する業務に関連して必要な資格の取得を従業員に推奨して、会社が資格取得に必要な費用をスタンする場合があります。
しかし、折角、会社が負担して免許や資格を取らせても、資格取得後1年も経たずに退職してしまうこともあります。このような場合、会社としては、その取得のために負担した費用の返還を求めたいと思うのは当然のことです。また、資格や免許取得のために費用負担した以上は少なくとも一定年数は勤務して、その資格や免許で会社に貢献してほしいという思いもあります。
しかし、労基法には、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」(第16条)との定めがあります。したがって、資格取得などの費用を会社が負担する代わりに、以後一定期間にわたり勤務することを約束させ、これを守らない場合は違約金を支払うことや、損害賠償として資格取得にかかった費用分の返還を義務づけることはできず、そのような誓約書を交わしても無効となってしまいます。
こうした事態を回避するには、資格や免許の取得に必要な費用については会社貸し付ける制度にして、労働契約の履行義務と金銭消費貸借を分けて運用しなければなりません。
たとえば、資格取得支援制度のようなものを設けます。その制度の運用に際し、資格取得に係る費用の全部または一部について、必要な場合は会社が貸し付ける制度とします。貸付金(金銭消費貸借)ですので、合意のもとに給料から控除する協定を締結すれば、毎月返済額を控除することもできます。残債についても退職を制限するものではなく、退職時に返還すればいつでも退職できることで問題ありません。また、資格取得後、一定期間勤務すればその貸付費用の一部または全部の返済を免除する制度とすることもできます。その資格をもって会社に貢献してくれたことに対する恩恵制度を設けるというものです。一定期間勤務して返済の一部または全部の免除を受けるか否かは労働者の自由です。免除勤務期間前に退職する事由も制限されていません。この制度を導入する場合は、後日トラブルにならないよう、資格取得の目的、費用貸与の趣旨、会社が費用負担する範囲、貸与限度額、貸与年数、返済方法、利息取扱い等を明確にし、労働者を不当に拘束していないものである旨を規定化しておくことです。
ところで、その資格や免許が業務に関連するものであり、それらを取得することが業務遂行上必須であったり、それらを取得することが業務遂行上必須であったり、会社の業務命令である場合の費用負担はどうなるかという問題があります。会社の指示で取得した免許や資格の取得費用は会社が負うことになります。なぜなら、使用者が労働者に対して資格や免許をとりなさいとの業務命令する行為は雇用契約に内在している教育訓練権(教育訓練を命じる権利)によるものであり、かつ、労働者に資格を取得させることで利益を得るわけですから、そのための経費も会社が負担すべきということです。したがって、業務との関連性が強い資格や業務命令として取得させる資格など、資格取得に任意性がない場合の費用については、貸し付けと返還免除の形式をとったとしても、それは、本来労働者が負担する必要のない金銭的負担を課すこととなり、労基法16条に抵触することになります。