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人事労務の法律教室-74
~退職した元従業員からの賞与請求~

当社は、過去にも業績次第では決算賞与を出していました。今期は働き方改革の推進により残業削減で従業員の残業代の支払いが減ったことなどもあり決算賞与を出したところ、支払日前に自己都合退職した元従業員から賞与請求がありました。支払うべきでしょうか?

退職した従業員からの賞与の支払請求はよくあることです。たとえば7月、12月の年2回に加えて、利益が出たときには決算賞与を支給するような場合があります。通常、賞与支給にあたっては、賞与の査定対象期間があり、事業年度を4月から翌年3月までとすると、7月賞与に関しては前年10月~当年3が月まで、12月賞与に関しては当年4月~9月まで、それぞれ6カ月間の勤務成績や業績貢献を査定して7月および12月の支給日を決めて支給します。決算賞与を支給する場合には、一事業年度間の業績貢献度などを査定して支給することになります。

しかし、すでに退職していて7月賞与、12月賞与、または決算賞与の支給日には在籍していない従業員が、査定期間中は在籍していたことを理由に、在籍期間に応じて賞与をもらう権利があるとして請求されることがあります。このようなトラブルを回避するには、就業規則に「賞与支給日に在籍しない者には賞与を支給しない」という支給日在籍要件を定めておくことで、支給日に在籍していな従業員に対しては支給しないことが認められています。

賞与は、労働の対価として毎月1回以上支払うべきとする通常の賃金と異なり、支給するか否か、支給する場合にはどのような条件で支給するかなどは、法律や公序良俗に反しない限り、就業規則や労働契約の定めによって決まるものと解されています。支給日在籍要件を定めることで、賞与支給日前に退職を希望する従業員の退職の自由を制限することになるのではないかという考えもありますが、退職の自由は残されていますので問題はないとされています。

過去の裁判例においても、就業規則等に「賞与は、支給日に在籍している者に対し支給する」などと、「支給日在籍要件」を定めることについては合理的なものとして認めています(京都新聞社事件・最―小判昭和60.11.28)。また、「就業規則等の明文の定めがなくても、労使間で従来からそのような慣行が確立している場合には、同じように在籍しないことを理由に支給しなくても差し支えない」としています(大和銀行事件・最―小判昭和57.10.7)。したがって、就業規則等による定めた労使慣行が存在すれば、賞与査定対象期間の全部または一部に勤務していたが、賞与支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取り扱いは問題ありません。

ただし、整理解雇などの会社都合の退職や定年による退職の場合は異なります。このような事由による退職は、従業員自らの意思で退職日を選ぶことはできませんので、支給日に在籍していなくとも、査定期間中の勤務期間に応じて支給するようにすべきです。賞与支給を避けるために支給日前に解雇するといった場合は、解雇そのものが無効となることもあります。仮に解雇が有効であっても、解雇によって支給日に在籍しないことを理由とする賞与不支給は無効とされる可能性もありますので、注意しなければなりません。

また、年俸制を採用している場合、たとえば「14分の1」または「16分の2」を、7月および12月賞与名目で配分支給するような場合は、名称の如何にかかわらず賞与ではなく、確定した賃金とみなされ、再度、年俸額を12等分した額と在籍期間に基づく既払い額との差額を支払わなければならないことになります。

○今月のポイント!
  • 支給日に在籍していない従業員には賞与を支給しないことを就業規則に定めておく。
  • 労使間の慣行で、支給日在籍が賞与支給の要件となっている場合も、支給は不要。
  • 整理解雇、定年退職による場合は、支給が求められる。
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