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人事労務の法律教室-73
~1週間後に退職希望の意向を受けた際の対応法~

当社の就業規則では、退職する場合には1ヶ月前の申し出と定めています。しかし、従業員から一週間後に退職したいとの申し出があり、その間は年次有給休暇を消化するとのことで、退職日まで引き継ぎもできず困っています。このような退職を認めなければならないのでしょうか?

従業員が、突然、退職の申し出をしてくることはよくあることです。最近は、従業員本人からの申し出ではなく、退職代行会社などを使って退職を一方的に連絡してくることもあります。このような従業員からの突然の退職の申し入れへの対応については、その従業員が有期労働契約のパート・アルバイトなどか、無期労働契約の正社員などかで異なります。

有期労働契約の場合は、雇用期間を定めているので、労使双方、契約期間の途中で解約するにあたっては、解約せざるを得ないやむを得ない事由がなければ契約違反となります。この点に関して、労働契約法では「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」(第17条)との定めにより、使用者に対して有期労働契約の途中解雇を制限しています。しかし、労働者に対する労働契約法上の制限規定はなく、民法で「当事者が紅葉の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」(第628条)との定めにより、やむを得ない事由のない契約解除については当事者たる使用者から労働者に対して損害賠償を求めることができるとされています。したがって、労使双方とも安易に有期労働契約を解除することはできません。

他方、無期労働契約については、労働者に退職の自由が保障されており、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(第627条第1項)と定められており、従業員からの雇用契約の解除の申し入れ後2週間を経過すれば有効となります。

したがって、就業規則で「退職の申し出は退職日の1ヶ月前までにしなければならない」と定めている場合であっても、従業員が退職届を提出して2週間経過すると、使用者からの承諾がなくとも退職の効力が発生することとなります。しかし、退職にあたっての誠実な業務引き継ぎは、雇用契約上の信義則として当然に従業員が会社に対して負う義務です。就業規則に退職時の業務の引継ぎの定めがあるのであれば、就業規則違反ともなります。したがって、退職時の引継ぎや行われなかった結果、会社に損害が発生したときは損害賠償を請求することもできます。

また、退職日までの期間を年次有給休暇の残日数の消化のために業務の引継ぎもせず出社しないということもよくあります。使用者には年次有給休暇の時季変更権があり「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」(労基法39条5項)とされています。退職後に年次有給休暇を与えることはできないため、残日数と退職日までの日数が同じ場合、時季変更権を行使することができません。このような場合には、退職日を遅らせるか、残日数を買い上げるなどにより、時季変更権を行使し退職時の業務引き継ぎを行わせることで対応することになります。

○今月のポイント!
  • 就業規則の記載の有無にかかわらず、雇用者の退職届け提出から2週間後には退職の効力が発生する。ただし、業務引き継ぎ不能による会社の損害を雇用者に要求することはできる。
  • 未消化の有休については、雇用者と調整する。必要であれば退職日を後ろ倒しにする。
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