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人事労務の法律教室-72
~通勤手当の不正受給発覚時の処分~

社員が転居して通勤距離および短くなり、通勤手当が減額されるべきところ、従来からの高い通勤手当による申請・支払いであることが発覚しましたが、そのような処分をすべきでしょうか?

通勤手当の支給の有無は、会社の就業規則によるものであり、その支給を定めている場合には必ず支給しなければなりません。ただし、必ずしもその全額を支給しなければならないものではなく、支給限度額を設けるかについても就業規則で定めておく必要があります。

就業規則や給与規定に定めている通勤手当の支給額の決定について、「通勤の経路及び方法は、最も合理的かつ経済的であると会社が認めるものに限る」という表記をすることが多くあります。しかし、この合理的かつ経済的な通勤経路があるにもかかわらず、意図的に遠回りかつ合理性のない経路で高額な通勤手当を申請し支給を受けている場合があります。たとえば、通勤が不便な自宅から、会社の近所へ転居するなどして、本来なら通勤手当が減額支給されるべきにもかかわらず、転居届を出さずそのまま支払いを受けている場合、また申告通りの経路や交通手段によることなく、浮いた分を私的に使っている場合などです。

このように会社のルールに反して不正に得た通勤手当の過払い分は不正利得として会社に返還しなければなりません。会社によっては、不正受給額返還を求め、さらに懲戒解雇とすることを就業規則に規定していることもあります。通勤手当の不正受給に関する判例をみると次のようなものがあります。

①かどや製油事件(東京地裁:平成11.11.30)
「社員は品川区に居住しながら、宇都宮市に住民票を移し、4年半の間に合計231万円の通勤手当を不正受給した。就業時の勤務態度も問題が多く、よく席を立つ(相当な頻度)などがあったため、会社は社員を懲戒解雇とし、社員はこれを不服として裁判所に訴えた」という事件です。この事件に関して、裁判所の判断は「就業規則に記載される懲戒解雇に該当する。理由は上司に無断で離席し、業務遂行をほとんど放棄していた。不誠実な勤務態度及び通勤手当の不正受給がある」として会社が勝訴しました。ポイントは、「不誠実な勤務態度」、「虚偽の住所申告」という2つの理由により、懲戒解雇が有効となったところです。
②光輪モーターズ事件(東京地裁:平成18.2.7)
「社員は通勤経路を安い経路に変更し、4年8カ月間で合計34万円を不正受給した。会社はこの事実を突き止め、社員を懲戒解雇とした。社員はこれに納得いかず、裁判所に訴えた」という事件です。この事件に関して、裁判所の判断は「故意又は重大な過失により会社に損害を与え、就業規則上の懲戒事由に該当する。通勤時間が長くなっても、自分の労力をかけて交通費を節約した。会社の現実的な経済的損害が大きくないこと、懲戒事由には該当しても、懲戒解雇までの厳罰は重すぎるもので懲戒解雇は無効である」として会社は敗訴になりました。

この2つの裁判から分かることは、通勤手当の不正受給による処分の妥当性は、不正受給した金額の大小およびその悪質性の程度です。通勤手当の不正受給は解雇までいかなくても、懲戒事由に該当することは事実です。こうした事態を防ぐには、通勤手当の支給に当たっては本人申請の経路を必ずチェックすること、定期券の写しの提出を義務付けること、不正行為が発覚した場合の返還請求期間、懲戒処分の内容などを告知し就業規則に定めておくことなどが必要です。

○今月のポイント!
  • 通勤手当の不正受給については、その返還を求めることができるほか、場合によっては懲戒処分に該当する。
  • 不正受給防止のための措置(例えば定期券の写しの義務付けなど)を取るべき。
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