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人事労務の法律教室-66
~新型コロナの影響による企業倒産時の賃金の確保策~

当社は従業員50人程度の中小企業で、新型コロナウィルス感染症の影響で会社の業績が急激に悪化し、会社が倒産することとなりました。会社の説明では、今月分の賃金の一部と退職金は支払えないとのことですが、労働者とのトラブルを回避するためにも何か救済方法はありますか?

新型コロナウィルス感染症の影響で、中小企業の倒産件数が増えています。会社の倒産に伴って、労働者の給料や退職金が未払いとなることがよくあります。しかし、会社が倒産したからといって、労働者に支払うべき賃金や退職金(退職金制度がある会社に限る)で未払い分があるときは、代表取締役等の経営責任として賃金を支払う義務(賃金債務)がなくなるわけではありません。倒産処理において、労働者に対する未払い賃金(いわゆる賃金債権)は、他の各種債権と比べれば優先度の高い方となります。そこで、労働者への賃金や退職金の未払いを救済するために、国は法律(賃金の支払の確保等に関する法律)に基づき「未払賃金の立替払制度」(以下、立替払制度という)を実施しています。ただし、この制度を活用できるのは、倒産した会社が1年以上にわたり、労災保険が適用されており、かつ、事業活動を行ってきたものでなければいけません。

この立替払制度の救済対象となる「倒産」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。

法律上の倒産
事業主が破産手続の開始、特別清算の開始、民事再生手続の開始、または会社更生手続の開始について申立を行い、裁判所がそれについて開始の決定または命令を行った場合。
事実上の倒産
中小企業で破産等の手続はとっていないが、労働者の申請に基づき事実上事業活動が停止(事業場が閉鎖され、全労働者が解雇されるなどにより、その事業本来の活動が停止した場合)し、かつ、再開の見込みなく、賃金を支払う能力がないことについて労働基準監督署長の認定を受けた場合。

なお、この制度の対象となる労働者とは、裁判所に対する破産等の申立日または労働基準監督署長に対する倒産の事実についての認定申請日を基準として、それ以前の6ヶ月前の日から2年の間に退職(解雇を含む)した者です。

また、この制度の対象となる未払賃金とは、退職日の6ヶ月前の日から立替払請求の日の前日までに支払期日が到来している定期賃金(毎月、一定の支払期日に必ず支払われる賃金)及び退職金で、未払いとなっているものです。

なお、立替払いは未払額の全額について行われるものではなく、定期賃金及び退職金を合算した未払賃金総額の100分の80相当額となります。また、未払い賃金総額の決定にあたっては、退職日の年齢に応じて、次の表のように限度額を基準にその100分の80相当額となります。

退職日の年齢 未払賃金相当額の限度額 立替払の限度額(限度額の8割)
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

したがって、たとえば、会社の倒産に伴い退職した労働者の退職日時点の年齢が32歳、未払賃金総額170万円(定期賃金50万円、退職金120万円)であれば、上記表に照らして未払賃金総額の限度(220万円)を超えていませんので、[170万円×0.8=136万円]が立替払額として支払われます。

このように会社が倒産して賃金や退職金が未払いの状態であっても未払賃金立替払制度を活用することで、未払い額の一部を確保することができます。

○今月のポイント!
  • 国が定める「未払賃金の立替払制度」が活用できる。
  • この制度で支払われる金額には、退職日の年齢に応じて定められた限度額がある。
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