M&Aロゴ

人事労務の法律教室-65
~遅刻した社員への時間外労働の割増賃金の支払い~

先日、1時間遅刻した社員からその日の終業時刻後の残業に関して残業代がついていないと苦情を言われました。遅刻しても残業代を支払わなければならないのでしょうか?

法定労働時間は労働基準法上、原則として、休憩時間を除き、実労働時間で「1週40時間、1日8時間」と定められています。この時間を超えて労働させた場合には、時間外労働となり、1時間につき通常の賃金1時間当たりの額について、2割5分以上の率で計算した額を支払わなければなりません。

また、労働時間について、行政解釈では「労働時間が通算して1日8時間又は週の法定労働時間以内の場合には割増賃金の支給を要しない」(昭22.12.26基発第573号、昭33.2.13基発第90号)、「法第32条又は第40条に定める労働時間は実労働時間をいうものであり、時間外労働について法第36条に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金の支払を要するのは、右の実労働時間を超えて労働させる場合に限るものである。従って、例えば労働者が遅刻した場合、その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算すれば、法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、法第36条に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金支払いの必要はない」(昭29.12.1基収第6143号)としています。

これに基づけば、労働基準法上の労働時間の規定の適用に当たっては、遅刻したかどうかは問題ではなく、実際にその日に何時間労働したかが基準となります。1日の所定労働時間が8時間の場合、1時間遅刻し、1時間残業したときは、その日の実労働時間は8時間を超えていませんから、割増賃金を支払う必要はありません。つまり、遅刻1時間と残業1時間が相殺されたことになります。したがって、労働者が始業時刻に1時間遅刻をし、時間外労働が2時間という場合には、8時間を超えた1時間に対して割増賃金を支払わなければなりません。

この8時間を超えた1時間分を遅刻に対するペナルティだとして残業代を支払わないとすることは違法となります。

なお、遅刻と残業の時間の相殺ができるのは、同一の労働日の者に限られ、他の労働日の時間外労働と相殺して他の労働日の残業手当を支払わないとするのは違法となりますので注意しなければなりません。同様に、早退時間相当の時間を他の日の時間外労働と相殺することもできません。

たとえば、4時間の残業をした日があったとして、その残業相当分だけ翌日の午前中(4時間)を休みにすれば、平均で1日8時間となるから時間外労働にはならず、残業手当(割増賃金)を支払わないことができるのではないかという考え方もありますが、そのような取扱いは違法となります。1日8時間を超える労働時間が時間外労働となるのであって、翌日の出勤時刻を前日の残業相当分(4時間)だけ遅らせても、すでに行われた時間外労働が時間外労働でなくなるものではありません。その4時間の時間外労働に対しては割増賃金を支払わなければなりません。日々の残業(時間外労働)を他の日の所定労働時間を短縮することにより吸収(相殺)し、時間外割増賃金を支払わないこととすることはできません。

また、1日の労働時間のうち2時間早退したからとして、他の日の時間外労働2時間分を相殺して残業手当を支払わないとすることもできません。

○今月のポイント!
  • 「1日の実労働時間が8時間以内か否か」が重要。
  • 遅刻1時間と残業1時間は相殺可。
  • ただし遅刻と残業の相殺ができるのは同一日に限る。
  • 特定の日の残業を、別の日の遅刻や早退と相殺することは不可。
Copyrights 2008-2009 M&A Allright reserved.