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人事労務の法律教室-60
~入社前研修実施に際して注意することとは?~

当社では入社に伴い、採用決定した者に2日ほど入社前研修を実施しています。正式には、研修終了後から正社員となるのですが、入社前研修へ参加を強要したり、参加しない者の採用取消しはできるのでしょうか。また、研修期間中は賃金支払わなければなりませんか。

警備業やサービス業など業種によっては、その仕事の性質上、入社前に採用決定者に対して、仕事に就くうえで必要な基礎知識や業務上のマナー、安全衛生教育、会社の仕組みなどについて研修を実施することがよくあります。

なお、前述のとおり、この法律の施行は2019年4月1日です。したがって、適用されるのは新たに年次有給休暇を付与する基準日が2019年4月1日以降に到来し、その基準日に新たに10日以上発生した労働者につき、その内の5日が取得の対象となります。

採用決定者の入社前の期間は内定期間となり、採用決定者は内定者となります。内定とは、会社と内定者の間で採用・入社の意思確認より労働契約が成立している状態。しかし、入社までの内定期間内に内定者に不祥事などで内定を取り消さざるをえないやむを得ない事由が発生した場合には内定取消しすることがあるという、いわば「入社予定日を就労開始日とする始期付きの解約権留保付き労働契約」(始期付・解約権留保付労働契約)といいます(大日本印刷事件 最高裁二小 昭54.7.20判決)。

内定者が実際に内定先企業の「指揮命令下」に置かれるのは「入社日」以降となり、本来、企業が内定者に対して研修への参加を強制することができるのは入社日以降に限られます。したがって、内定先企業が内定者に対して入社前研修(内定者研修)への出席を強要あるいは義務づけることに法律上の根拠はないといえます。

そのため、内定期間中に研修参加を義務づけられるか否かは、内定時にどのような合意をしていたかによります。なお、仮に任意参加であっても、参加しないことで内定者に不利益が生じるようなことがあれば、実質的に参加を強制していることになります。内定期間中の研修参加に合意があっても、強制できる法的根拠がない以上、合理的な理由(新卒者の場合は学業への支障など)に基づき、入社日前の研修等への参加を取りやめる旨の申し出があったときは、これを免除すべき信義則上の義務を負っているとされています。

以上のことから、内定期間中の研修への参加を義務付ける場合には、採用決定時にきちんと説明し、合意を得ておく必要があります。ただし、仮に合意があっても、研修に参加しないことを理由に、入社を辞退させたり、採用を取消したりすることはできません。

次に参加を義務とした入社前研修は、企業の「指揮命令権」に基づいて、内定者に対して参加を強制していることになります。したがって、使用者の指揮命令下に置かれている時間については、実際に業務に従事している時間でなくても、すべて労働時間として賃金が発生するというのが過去の最高裁の判例です(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁 平12.3.9判決)。

よく内定期間中の研修に対して、交通費および食事代のみを支給していることがありますが、研修への参加を義務化した場合は、注意が必要です。過去の裁判例を踏まえれば、入社予定日以降に受けとるであろう初任給を基に、時給換算した賃金を支払うべきと考えられます。少なくとも研修参加の時間に応じて最低賃金額以上の賃金は支払わなければなりません。なお、任意参加であれば賃金支払義務は生じないものの、内定者にとっては参加せざるを得ないこともあり、賃金を支払った方が問題は起きないでしょう。

○今月のポイント!
  • 内定者に対する入社前研修への出席を教師できる法的根拠はない。
  • 入社目研修が予定されている場合は、採用決定時にその旨を説明すべき。
  • 参加を義務とした入社前研修には賃金が発生する。
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