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人事労務の法律教室-58
~複数の事業所で働く人の労働時間の上限規制の問題~

当社には、パートタイマーやアルバイトがいます。中には同じ日に当社で午前中のみ、他社で午後のみ、または当社で週3日、他社でも3日などと分けて働いている労働者がいます。このような場合、働き方改革による残業時間の上限規制の適用はどうなるのでしょうか。

パートタイマーやアルバイトの中には複数事業所で働いている人がいます。2つ以上の事業所で働いている労働者の労働時間の取扱いは、労働基準法第38条に基づきそれぞれの事業場での労働時間を通算します。その結果、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働者を使用する使用者は、その事業所での労働時間が法定労働時間内であっても、その労働者が法定労働時間を超えて労働する部分の労働時間に対しては、残業代として割増賃金を支払わなければならないことになります。

たとえば、A事業所で所定の8時間勤務し、同日にそのまま次のB事業所で4時間勤務した場合は、B事業所で4時間勤務した場合は、B事業所で勤務した4時間は法定労働時間を超える時間外労働時間となり、B事業所は残業代の支払い義務があります。

働き方改革関連法による労働基準法の一部改正により、2019年4月1日より時間外労働は、法律上原則として、「時間外及び休日労働に関する協定」(36協定)の締結の下に、月45時間、年間360時間となり、臨時的な事情があり労使が合意する場合(特別条項の締結)であっても、年720時間以内、月100時間未満(休日労働を含む)、2ヶ月~6ヶ月平均が全て1月当たり80時間以内(休日労働を含む)とする上限規制が適用されます。この時間外労働の上限規制は、事業所ごとに適用されるものです。

一人の労働者がA事業所とB事業所の両方で働く場合、時間外労働に係る労働時間数はそれぞれの事業所ごとにカウントします。それぞれの事業所ごとに結ばれた36協定の範囲内で時間外労働を行うのではれば問題ありません。ところが、「月100時間未満、2ヶ月~6ヶ月平均がすべて1月当たり80時間以内」という上限規制は、AおよびBの2つの事業所の労働時間を通算したものに適用されることになります。AおよびBの事業所の時間外労働と休日労働の労働時間数を合計して、100時間以上となったり、2ヶ月~6ヶ月平均で全て1月80時間を超えることはできません。それを超えて労働させると罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されることにもなります。

したがって、2つ以上の事業所で働く労働者を使用する場合には、労働時間は自社だけでなく、もう一方の事業所の労働時間も把握する必要があり、それぞれの事業所の時間外労働時間を通算して上限規制に抵触しないどうか確認しなければなりません。 この点について、副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)及び「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」の報告書を参考にすると次のような管理が必要となります。

  • ①労働契約を締結する際に、自社での事業所での労働および所定労働時間を確認し、自社での労働時間を通算して法定労働時間以内となるよう所定労働時間を超える場合には超える事業者が割増賃金を払う。
  • ②本人から自己申告により、もう一方の事業所での労働時間を把握する。そして、自己申告や事業所の許可があれば、他の事業所での勤務時間が分かる書類などを提示してもらうことで労働時間管理する。
  • ⑤労働者自身が月の総労働時間を把握し、上限時間に近くなったときに各事業主に申告する。

○今月のポイント!

複数事業所勤務労働者の残業時間の上限規制は、事業所ごとに通算された労働時間に適用されるため所定労働時間の定めと労働者からの申告による管理が重要

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