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人事労務の法律教室-43
~パートタイマーに通勤手当を支給しないのは違法?~

当社では、通勤手当は正社員のみに支給し、パートタイマーには支給していません。
この点についてパートタイマーから違法ではないかと指摘されました。
通勤手当は法律で支給が義務付けられているものではないため、パートタイマーに支給するかどうかは会社の自由では?

正社員とパートタイマーの手当に格差を設けることについて納得できる理由があるのであれば、「会社の自由」で問題ないのですが、通勤手当の格差については、近年、裁判で「不合理な格差であり違法」と判断される例が増えています。

○通勤手当の支給は義務ではない

確かに通勤手当の支給は法律で義務付けられているものではありません。実際には支給する会社が大半ですが、「支給しない」と就業規則で定めたとしても違法ではありません。

調査結果によると、正社員に通勤手当を支給する企業は約9割、パートタイマーに支給する企業約8割となっています。※平成28年パートタイム労働者総合実態調査

○正社員とパートタイマーの格差

しかし、問題となるのは、同じ職場において正社員にだけ支給して、パートタイマーには支給しないという点です。このような格差は許されるのでしょうか。

多くの経営者は、正社員とパートタイマーでは仕事の範囲や責任がちがうため、資金に格差があるのは当然と考えているようです。通勤手当に関しても、正社員とパートタイマーで格差を設けてもよいという考えがあるのでしょう。

○「不合理な格差」は違法

しかし労働契約法20条では、無期契約労働者と有期契約労働者との間で、労働条件に不合理な格差を設けてはならないと定めています。

「不合理な格差」の裁判例を1つご紹介しましょう。

海産物の運輸会社において正社員には月額1万円の通勤手当、パートタイマーには月額5,000円の通勤手当を支給していた事件です。通勤手当の格差は「不合理な格差」なのかどうか、これが問題なのです。

判決では「いずれの職務内容も、卸売市場での作業を中核とするものであり、パートタイマーか正社員かを問わず、仕事場への通勤を要し、多くの者が自家用車で通勤しているという点で、両者で相違はなく、パート社員の方が通勤時間や通勤経路が短いといった事情もうかがわれない」

「通勤手当の相違に合理的な理由は見いだせず、通勤手当の性質に照らし合わせると、職務内容の差異等を踏まえても、この相違は不合理なものといわざるをえない」として違法と判断されました。

なお本件では、後に正社員の通勤手当が5,000円に削減され格差が解消されています。

その反面、正社員の給与総額が減額しないように正社員の職能給を1万円増額するという対応をとっており、パートタイマーは「実質的に通勤手当の格差が存続している」と主張しましたが、「職能給と通勤手当は別個の手当であるため同視できない」として却下しました。

○職務が異なる場合は?

今年6月におこなわれた「ハマキョウレックス事件」の最高裁判決でも、正社員と契約社員の通勤手当の相違について判断がありました。

最高裁判決では、次のような理由で通勤手当の格差を違法と判断しています。

  • ①通勤手当は通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであり、期間の定めの有無によって通勤に要する費用が異なるものではない。
  • ②職務の内容および配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関係しない。
  • ③通勤手当に差異を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。

この事件は、正社員と契約社員とで職務内容が同一でしたが、上記の理由からすると、職務が異なる場合でも特別な事情がない限りは通勤手当の相違は違法と判断される可能性が高いと言えるでしょう。

いずれの職務も通勤に関してちがいが生じることは基本的にはないでしょうから、通勤手当に格差を設けるのは避けた方がよいと考えます。

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