M&Aロゴ

人事労務の法律教室-36
~労災保険を使わないなら死傷病報告は提出しなくていい?~

従業員が仕事中にケガをして1週間休業しました。治療費は会社が支払いましたし、休業中の給与も全額支払う予定です。今回、労災保険は請求しないので、死傷病報告も提出しなくていいですよね。

労災保険を使わない場合でも、労働者私傷病報告(以下「死傷病報告」といいます)は提出しなければなりません。死傷病報告は「事故報告」です。提出を怠ると「労災かくし」を疑われ、処罰されることもあるので注意が必要です。

○死傷病報告と保険は別もの?

死傷病報告と労災保険の申請書類は提出する目的がまったく違います。
労災保険の場合はご承知のとおり、業務災害・通勤災害による治療や休業補償といった保険給付を申請するために書類を提出します。
一方、死傷病報告は、労働者が業務上の負傷などにより死亡または休業した場合に、所轄の労働基準監督署へ提出する「事故報告」です。提出された死傷病報告をもとにして、行政が事故の原因の分析をおこない、再発防止策の検討などに活かすのです。
死傷病報告は、労災保険法ではなく労働安全衛生法によって提出が義務付けされているものです。ですから、労災保険を請求するかどうかに関わらず、提出しなければなりません。
ご質問のケースのように、会社が治療費や休業中の給与を全額支払い、労災保険を一切使わないという場合でも、死傷病報告を提出する義務はあるのです。

○どんな時に提出する?

死傷病報告を提出するのは次の場合です。

労働者が①~④のいずれかにより負傷等し、死亡または休業した時

  • ① 労働災害
  • ② 就業中
  • ③ 事業場内又は付属建設物内
  • ④ 事業の付属寄宿舎内

③や④のように、仕事中でなくても提出が必要な場合があります。どのような災害が起きたか、被災した労働者や関係者から事実関係を聞き取り、正確な内容を記載します。
通勤災害の場合や、社長などの労働者でない人については死傷病報告を提出する必要はありません。

※中小事業主等が特別加入していれば労災保険の給付を受けることができますが、その場合でも労働者でない人については死傷病報告の提出は不要です。

○様式は2種類

死傷病報告は、被災した労働者の休日日数により提出する様式や期限が異なります。
休業日数が4日以上のときや労働者が死亡したときは、休業見込期間や詳しい災害発生状況、略図などを記載し、災害発生後「遅滞なく」提出しなければなりません。
「遅滞なく」とはおおむね1週間から2週間以内程度とされており、災害発生から1ヵ月を超過している場合は提出が遅れた理由について、書面による報告(報告遅延理由書)を求められることがあります。
休業日数が1日以上3日以内のときは、四半期ごとに発生した労働災害をとりまとめて、各期間の最後の月の翌月末日までに(たとえば1~3月発生分は4月末までに)提出します。
こちらの様式は、被災労働者の氏名や発生状況を箇条書きで記載します。
なお、1日も休業していなければ死傷病報告を提出する必要はありません。

○悪質な事例は刑事処分も

労働者死傷病報告が提出されないと、被災労働者が適正な労災保険給付を受けられなくなったり、災害の再発防止策が講じられなくなってしまいます。そのため、死傷病報告の未提出や虚偽記載は「労災かくし」として労働基準監督署が厳しく取り締まっています。
労災かくしをおこなうと、労働安全衛生法違反により書類送検され、50万円以下の罰金に処せられることがあります。

○企業名の公表のおそれも

厚生労働省は、昨年5月より労働基準関係法令違反について書類送検した企業名などをホームページで公表しています。
労働安全衛生法関連の法令違反が多く記載されており、その中でも労働者死傷病報告が「遅滞なく」提出されていない事案が特に多く見られます。
労働者死傷病報告を適正に提出することが重要視されていると言えるでしょう。

Copyrights 2008-2009 M&A Allright reserved.