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人事労務の法律教室-34 ~内容を知らされていない就業規則は無効?~

社内規則に違反した社員を出勤停止にしたところ、そんな規則は知らなかったから無効だと言われました。就業規則は総務部のキャビネットにあり、申し出があった社員には見せています。就業規則を確認しなかったのは社員の責任では?

周知させていない就業規則は無効です。総務部のキャビネットにしまっていて、見たくても見たいと言い出しづらい状態では「周知させた」とは言えず、裁判になった場合は就業規則および就業規則にもとづく懲戒処分も無効と判断される恐れがあります。
懲戒処分をおこなうためには、就業規則等に懲戒事由が定められている必要があります。そして、その就業規則が効力をもつためには労働者に周知させておく必要があります。 周知させていない就業規則は無効であり、無効な就業規則にもとづく懲戒処分も当然無効となります。

○どうすれば周知させたことになる?

どうすれば就業規則を労働者に周知させたことになるのでしょうか?
法律では、具体的に次の3つの方法をあげています。

  • ①見やすい場所へ掲示したり備え付けたりする
  • ②労働者に書面を交付する
  • ③労働者がパソコンなど機器を使っていつでも内容を確認できるようにする
労働者が実際に就業規則を読んだかどうか、内容を認識していたかどうかまでは要求されません。労働者が就業規則の内容を知ろうと思えば知ることができる状態にしておけば「周知させた」ことになるのです。
○「周知」をおろそかにしていないか

しかし、就業規則を労働基準監督署に届けるところまではできていても、「周知」の部分をおろそかにしている会社が意外と多いのです。
全員に配布したり、社内イントラにアップして社員がいつでも見られるようにしている会社もありますが、中には、社長の机の引き出しや総務部のキャビネットにしまいこんでいて、見たくても見たいと言い出しにくい状態になっている会社もあります。これでは「周知させた」とはいえません。
また、休憩室など誰でも見られる場所に保管したとしても、そこに保管していることを社員に知らせていない、あるいは知らせていても「確かに知らせた」と証明できる客観的な証拠が残っていないケースもあります。
就業規則の有効性(周知させていたかどうか)について労使で争いになった場合は、会社側に、周知させたことを証明する義務があるのです。

○会社側に大きなリスクが

就業規則を社員に見せたくないと考える経営者は多いようです。就業規則に規定したとおりに残業代を支払えていないから社員に気付かれると困る…などいろいろ理由があるでしょう。
しかし、周知させていないために会社側が困ることもたくさんあります。就業規則が周知されていないと判断されれば就業規則の内容が丸ごと無効になってしまうのですから、これは大変危険なことなのです。
ご質問にある懲戒処分もその1つです。明らかに懲戒処分に該当するケースでも、懲戒処分を定めた就業規則が周知されていなければ就業規則が無効、それに伴い懲戒処分も無効と判断されてしまう可能性があります。
過去の裁判例では、横領やタイムカードの不正打刻をおこなっていた社員を懲戒解雇したところ、会社側が就業規則を周知させていたことを証明できなかったために懲戒解雇が無効と判断されたケースもあります。
出向などの異動移動命令も、就業規則が周知されていなかった場合は無効と判断される恐れがあります。

○周知させたと証明できるように

就業規則のありかを知らせたかどうかという些細な問題ですが、これが否定されたときのインパクトは相当大きなものです。会社側は「確かに周知させた」と証明できるようにしておかなければなりません。
パソコンの共有フォルダに保存しておくにせよ、休憩室の本棚に入れておくにせよ、就業規則がその場所にあるということを労働契約書に明記しておくなどの対策が必要でしょう。また、印刷した就業規則を一人ひとりに配る場合でも受領のサインをもらっておくとよいでしょう。

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