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スッキリわかる労災保険-3 ~部下に殴られケガ... 労災保険は使える?~

先日、素行の悪い社員へ上司が注意したところ、反抗的態度から口論になり、部下が上司を殴りケガをさせてしまいました。このような場合、労災保険から給付を受けることはできるのでしょうか。

労災保険では原則として個人的な恨みによって争いになりケガを負ったような場合は支給対象となりません。ただし、業務との関連性があると認められる場合は支給対象となることもあります。支給対象となるかどうかは、労働基準監督署の決定を待つことになりますが、会社としては、当事者・目撃者などから話を聞くなどして可能な限り情報収集に努めましょう。

○仕事がきっかけで争いになれば

職場の上司と部下、同僚同士などで暴力沙汰となり、労働者がケガを負うことがあります。このような場合、ケガの原因は加害者の私怨(個人的な恨み)ですから、一般には労災保険の支給要件である「業務起因性※」は認められません。 ※業務と災害との間に相当因果関係が認められること

ただし、「上司が部下の勤務態度を注意していたら部下が逆上して殴ってきた」など、そのケガの原因が業務になる場合は、労災保険の対象となることもあります。

○具体的な判断は

 労災保険の対象となるには、具体的に次のような要件が求められます。

  • ① 加害行為が明らかに業務に起因しているかどうか。
  • ② 災害の原因となる業務上の事実と加害行為の間の時間的・場所的関連性があるかどうか。

もともとは業務上の原因があった場合でも、時間がたつと私怨に変わる場合が多いと考えられています。そのため、勤務中の加害行為は業務との関連が強いと推定されますが、勤務時間外の生活の場での加害行為は、私怨によると推定されるケースが多いようです。

なお、発端が業務に関連があった場合でも、双方が暴力行為に踏み込んだ段階から支援の扱いとされ、労災保険の対象とならないことがあります。

ただし、明らかな正当防衛は「けんか」とは考えないため、労災保険の対象となることもあります。

このように見てくると、通常の明らかな労災事故とは違い、状況などを詳しく確認のうえ労働基準監督署の判断を仰いで労災申請をすることになります。

○費用の求償を差し控える

労災保険は、通常、使用者から被災労働者へ支払う賠償責任を担保するためのもので、使用者に代わって被災労働者へ保険給付をおこないます。

しかし、暴力行為などによってケガをした場合は、使用者と被災労働者の間の出来事ではなく、加害者である第三者が存在します。労災保険ではこういうケースを「第三者行為災害」といって、少し取り扱いが変わってきます。

第三者行為災害の場合、本来、治療費などは加害者である第三者が負担するべきものです。そこで、労災からいったん治療費などが支払われたとしても、労災保険(政府)がその第三者へ治療費などの返済を求めることになります。これを「求償」といいます。

加害者が会社の同僚であった場合、加害者である労働者へ求償することになりますが、加害労働者について使用者責任を負う会社にも求償できることになります。しかしこれでは、使用者の補償責任を担保するための労災保険制度のもともとの目的に照らし不合理なことになってしまいます。

そこで、同僚労働者同市の争いによる災害の場合などは政府は労働保険の給付について加害労働者への求償を差し控える(要は支払いを求めない)とされています。

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