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人事労務の法律教室-30 ~職場での旧姓使用、認めないとダメ?~

先日、女性社員が結婚しました。職場では旧姓を使用したいと言っていますが、管理が煩雑になりそうで不安です。本人からの希望があれば旧姓使用を認めなければならないのでしょうか。

旧姓使用を認めなければならないという法律はありませんが、社員の旧姓使用が認められないことを苦痛に感じ、訴訟に発展したケースもあります。 管理の手間は増えますが、時代の流れから考えても認めてあげた方がよいと考えます。

○最高裁と地裁の判決に混乱

平成27年12月、最高裁が「夫婦は同姓」と定めた法律が憲法違反ではないと判断しました。その理由の1つとして、職場などでの旧姓使用が広がってきているため姓の変更による不利益が緩和されることがあげられました。

一方で、私立校の女性教員が職員の旧姓使用が認められず起こした訴訟では、「職場で戸籍姓の使用を求めることには合理性があり、旧姓を使えないとしても違法ではない」と判断され、混乱する声があがっています。

職場で姓が変わるデメリット

職場で使う姓が変わると、次のようなデメリットがあります。

パートタイマーとの労働契約書(または労働条件通知書)を確認してください。「所定外労働の有無」は必ず明示しなければならない事項なので記載があるはずです。「残業なし」と明示しているのであれば残業を命じることはできません。

  • 名刺やメールアドレスを変えて顧客や取引先に知らせなければならない。離婚した場合も知らせなければならず精神的に苦痛がともなう。
  • 結婚前に発表した論文や本の著者名が変わり、自分の成果であることが認識されない。
旧姓使用のメリット・デメリット
メリット デメリット
本 人
  • キャリアが分断されない
  • 氏名変更の連絡がいらない
  • 使い分けが面倒(何が旧姓で何が戸籍名か)
会 社
  • 女性社員のモチベーション維持
  • 電話の取次ぎなどがスムーズ
  • 2つの名前を管理しなければならない
旧姓と戸籍名の使い分け
旧姓を使用 名刺、メール、社内資料など
戸籍名を使用 賃金台帳、源泉徴収票、社会保険の手続きなど
会社によって扱いが異なる 社員名簿、身分証明書、出勤簿、住所録、給与明細など

特に営業職や専門職においては、結婚前に築いた信用や評価の基礎となる名前が変わることで、キャリアが分断されてしまいます。また、結婚や離婚といった仕事とは関係のないプライベートな事を、いちいち社内外に説明しなければならないのが負担だという声もあります。

○8割超の企業が旧姓使用認める

平成28年の調査では、職場での旧姓使用を認めている企業は全体の82.9%、そのうち実際に職場で旧姓を使用している社員が「いる」企業は98.0%という結果でした。 ※労務行政研究所「共働き時代における企業の人事施策アンケート」

国家資格でも、戸籍名に旧姓を併記して登録し、旧姓で仕事ができるものが増えてきています。今後は、マイナンバーカードに旧姓を併記できるようになるほか、住民票にも旧姓の欄が設けられる見込みです。

○旧姓使用を認めなければならない?

今のところ職場で旧姓使用を認めなければならないという法律はありません。認めるかどうかは企業の自由です。しかし過去に、旧姓使用が認められないことを社員が苦痛に感じ、訴訟に発展した例もあります。冒頭で紹介した裁判例では「職場で戸籍姓の使用を求めることに合理性がある」と判断されましたが、今後マイナンバーや住民票にも旧姓が併記できるようになった場合、同じように判断されるかは疑問です。

○会社は管理の手間が増えるが…

旧姓使用を認める場合でも、金融機関や国が関わる公的な書類は現在のところ戸籍姓が要求されるため、経理や人事は旧姓と戸籍名の両方を把握して管理しなければなりません。管理に手間がかかるため、旧姓使用を認めたくないという企業側の言い分も理解できます。しかし、結婚により姓を変えるのは女性の方が圧倒的に多いという現状において、旧姓使用を認めないことは、不利益や負担を女性にばかり負わせているとも言えます。時代の流れから考えても、旧姓使用を認めてあげた方がよいのではないでしょうか。

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