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退職したアルバイトが制服を返さないことがあります。催促するのも面倒ですから、返却しないときは最終の給与を支払う際に制服代を差し引くことにしようと思います。それと、アルバイトに注意を促す意味でも、就業規則に制服を返却しない場合は給与から差し引く旨の規定を設けようと思います。何か問題はありますか?
給与から一方的に損害額を差し引くことは、法律の定める「全額払いの原則」に反するため認められません。ただし、本人の「自由の意思」により同意を得ておこなうのであれば、差し引くことも許されています。労働者にとって給与は大切なものですから、安易に差し引くことは考えない方がよいでしょう。まずは、面倒でも繰り返し返却を促し、紛失など返却ができないという事態になれば、同意を得た上で給与から控除することもできるでしょう。
賃金は、労働基準法により、原則としてその全額を支払うよう定められています。ただし、源泉所得税など法律で定められているものや、社宅家賃、旅行積立金などを労使協定を結んだ上で控除することは許されています。
裁判例によれば、労働者の同意を得ておこなう給与からの控除は、この法律に違反しないとされています。ただし、この裁判例によれば、労働者の同意が「自由な意思」によるものでなければならないと言っていますから、強要したものではないと客観的に判断できることが望ましいと言えます。そのためには、給与から控除することについて同意書を取っておくべきですし、その同意書を書かせる過程でも無理やり書かせたと思われないように注意するべきなのです。
このように、給与から控除することも、結局、労働者と返却について話をしなければならないのですから、簡単ではありません。
では、制服代を差し引くことを就業規則に定めることも可能かというと、労働基準法では、「賠償予定の禁止」といって、あらかじめ損害賠償の額を定めるなどの契約を禁止しています。例えば、「○ヶ月以内に退職した場合は○万円支払う」などとすれば、労働者は辞めたくても辞められず労働を強制されることになるからです。
ただし、この法律は実際に起きた損害賠償まで禁止するものではありませんから、労働者に制服代の賠償を求めることができないわけではありません。「制服、その他会社の備品等を紛失、毀損した者には、損害の賠償を求めることがある」などと、就業規則に注意をするための記述をすることはできるでしょう。
具体的に、どれくらいの損害賠償を求めることができるかも問題です。結論から言うと、新品の制服代として満額を請求することはしない方がよいでしょう。
制服は、多少なりと使用されているのですから新品のものよりも価値が下がっていると考えるべきでしょう。さらに、損害損害の額を算定できたとしても、その全額を労働者に負担させるべきではありません。過去の裁判例を見ても、使用者は、労働者が働くことによって利益を得ているのですから、そこから生じるリスクも負担すべきと考えられているからです。
どれくらいの損害賠償を減額するかは、労働者の過失の程度、地位、職責、労働条件、そして使用者の予防策、保険などの損失分散策などから判断されます。まれに満額が認められたこともありますが、横領などよほど悪質なケースに限られます。
以上のように、給与から損害額を差し引くことは、労働者の同意があれば可能です。しかし、会社の評判を落としたり、トラブルになることなどを避ける意味では、制服や備品等の持ち帰りを禁止するなど、損害が発生しないための工夫も大切なことと言えるでしょう。