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仕事のストレスでうつ病にかかり、労災を受給しながら長期間休職している社員がいます。業務上の傷病で休んでいる間は解雇できないと聞きましたが、うつ病が治らなかったらこのままいつまで解雇できないのでしょうか?
解雇制限期間中でも、療養開始から3年経過して、平均賃金1,200日分の打切補償を支払った場合は解雇が可能となります。ただし、その場合でも解雇権の濫用とならないように注意が必要です。
業務上の傷病により休んでいる期間とその後30日間は、労働基準法によって解雇が制限されています。
しかし、休業が長期にわたる場合は、いつまでたっても復職できないし、解雇も出来ないというケースもあります。特にうつ病などのメンタルヘルス疾患では病気が長引きやすい傾向があるため会社にとっては深刻な問題です。そこで労働基準法では、この解雇制限期間について「打切補償」という例外を設けています。
打切補償とは、業務上傷病により「療養補償」を受けて療養している労働者が、療養開始後3年を経過しても治らない場合に、使用者が平均賃金の1,200日分の打切補償をおこなえば、その後は「療養補償」をおこなわなくてよくなるとともに、解雇制限が解除されて解雇も可能になるというものです。
ここで「療養補償」という言葉が出てきました。あまり聞きなれないかもしれませんが、これは労働基準法で定められたもので、仕事が原因でケガや病気をした労働者には、会社が治療費や休業中の生活費など必要な補償をしなければならないというものです。
この補償を労働者が確実に受けられるようにしたのが労災保険です。労災保険から給付がおこなわれる場合、会社は「療養補償」を免除されます。 実際のところ、仕事でケガや病気をすれば、労災給付を受けるのが通常ですから、会社が「療養補償」をおこなうことはほとんどありません。
さて、打切補償の話に戻ります。ここで問題になるのが、会社が「療養補償」をおこなっておらず、労災給付を受けている状態で3年経過した場合に、打切補償を支払って労働者を解雇できるのか?という点です。法律では、打切補償の対象は「療養補償を受ける労働者」となっています。労災給付を受けていて療養補償を受けていない労働者は対象とならないのでしょうか?
この問題については、今年6月8日に最高裁で初めて判断が示されました。結論から言うと、労災給付を受けている場合でも打切補償を支払えば解雇できるというものです。 この事件について、1審、2審ではともに「解雇は無効」と真逆の判断をしていました。そもそもこの打切補償という制度は、療養補償の長期化による会社側の負担を軽減するのが目的だから、労災給付を受けていて会社が療養補償をおこなっていないのであれば、負担軽減を考慮する必要がない、というのがその理由です。
これに対し最高裁では、労災給付は会社が費用負担する療養補償に代わるものだから、労災給付と療養補償で取り扱いを変えるべきではない、と判断しました。 労災給付が通常で、会社が療養補償をおこなうのは稀であることを考えると、妥当な判断ではないでしょうか。
ただし、打切補償を支払えばただちに解雇できるわけではなく、解雇権の濫用となっていないかという点にも注意が必要です。この点についてさらに審理するため、この事件は高裁に差し戻しとなりました。