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人事労務の法律教室(13)エボラ出血熱など感染の疑いのある社員を自宅待機にできるか?

最近、新型インフルエンザやエボラ出血熱など、感染すると病状が重い病気が流行し、社員が海外旅行などから帰国した際、すぐに勤務させてよいか心配なこともあります。一定期間自宅待機させるなど勤務を制限することに問題はありませんか?

重大な感染症については、都道府県知事などが就業制限の措置を取ります。その他、医師の指示による場合などは、会社は、指示に基づき就業を制限することができます。それ以外の安全措置として自宅待機を命じる場合などは、労働基準法の定めにより休業手当てを支払う必要があります。

○労働安全衛生法の就業制限とは?

労働安全衛生法では、「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」の就業を禁止するように定めています。ただし、平成11年に施行された感染症法により法定伝染病について措置が定められているため、労働安全衛生法の規定は、現在「伝染させるおそれが著しいと認められる結核」のみを対象としています。しかもこの規定は、配置転換など他の就業方法を検討しても、なお、やむを得ない場合に限り禁止するものとされていますから、「疑わしい者」を安易に就業制限してもよいものと考えてはなりません。

○感染症法の就業制限とは?

感染症法では、表のように病気に一定の分類を設けています。このうち、一類、二類、三類、新型インフルエンザ等の感染症と診断された場合、医師は都道府県知事に届け出なければなりません。都道府県知事は、その感染症の蔓延を防止するために必要があると認めた場合、感染症の種類に応じて一定期間の特定の業務(飲食、サービスなど)に従事してはならないことを通知できます。

類 型 疾 病
一類感染症 エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
二類感染症 急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARSに限る)、鳥インフルエンザ(H5N1に限る)
三類感染症 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
新型インフルエンザ等感染症 新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ
○医療機関への受診を強制できるか?

会社としては、感染の疑いのある社員が出た場合、速やかに感染の有無を確認し、適切な治療を受けさせる必要があります。そこで、会社が感染の疑いのある社員に対し、医療機関の受診を命じることができるかが問題となります。

裁判例では、就業規則に受診義務の定めがあり、健康の早期回復という目的に合理的ないし相当性があれば、社員に医療機関への受診を強制することができるとしたものがあります。(電電公社帯広局事件 最高一小 昭61.3.13判決)

○就業禁止と休業手当

労働者に自宅待機を命じることはできますが、労働基準法では、使用者の責任で労働者を休業させた場合、休業手当として少なくとも平均賃金の6割以上を支払うよう定めています。

感染症法により都道府県知事や保健所の指示により就業を制限させられる場合はもちろん、医師の指導により自宅療養等をさせる場合も、会社は感染した労働者を出勤させてはなりません。この場合の休業は、使用者責任ではないため、休業手当の支払い義務はありません。 しかし、医師は勤務可能だとしているが、会社が「あと5日間は出勤しないこと」などと、医師の指導を超えて休業させる場合は、会社の一方的な判断ですから、休業手当を支払う必要があります。

また、「海外から帰国直後、熱が37度以上の労働者は自宅待機」など、一律に労働者を休ませる場合も会社の判断ですから、休業手当を支払う必要があります。 なお、医師の診断書の発行費用は誰が負担するべきかという点について法律には定めがありませんが、会社が診断を求めるのであれば、会社が負担するのが妥当でしょう。

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