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人事労務の法律教室(10)この業務は専門業務型裁量労働制の対象業務?

当社はゲームソフトを制作していますが、個人の発想の違いによって成果が大幅に異なるため、実労働時間にかかわらず賃金を支払いたいと思います。裁量労働制の導入は可能でしょうか?

「ゲーム用ソフトの創作の業務」に従事する労働者には、専門型裁量労働制を適用することができます。しかし、指示にもとづきプログラミングをおこなう裁量権のない労働者などは対象にできないため導入には注意が必要です。

○専門業務型裁量労働制とは?

労働時間は、原則として実時間で把握したものです

しかし、例えば「研究開発の業務」のように、業務の遂行方法を労働者の裁量に任せるべきで、その労働を実労働時間で評価することが相応しくないものもあります。労働基準法では、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある一定の業務について、対象業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度を設けています。これを「専門業務型裁量労働制」といいます。

この制度でみなし時間を9時間と定めた場合、実際は10時間働いても7時間しか働かなくても、9時間働いたものとして賃金を支払うことになります。 制度の導入にあたっては、「対象業務」「労働時間としてみなす時間」「健康および福祉を確保する措置」など一定の事項を労使協定で定め、所轄労働基準監督署に届け出ることが必要です。

対象業務とは、「情報処理システムの分析・設計の業務」「コピーライターの業務」「ゲーム用ソフトの創作の業務」など法律で限定列挙した19業務に限ります。

○本当に対象業務に合致するのか?

専門業務型裁量労働制の適用においては、法律が対象業務を限定列挙している以上、会社の業務がこれらの業務と合致しているかが重要になってきます。つまり、裁量労働制の適用に誤りがあれば、実労働時間に対する残業代を支払う必要があるからです。

今年2月に東京高裁であった判決では、「税理士の業務」について、税理士資格を持たない者の税理士補助の業務が対象となるかどうかが争われています。判決では、「税理士の業務」は、資格を有し税理士法所定の税理士名簿への登録を受けている者自身を主体とする業務をいうと認定し、実労働時間にもとづく未払い残業代の支払いを命じています。

○対象業務以外に従事する場合

また、みなし労働時間を適用できるのは「実際にその業務に就かせた場合」であって、イベントや出張など、対象業務と異なる業務に従事するときは、やはり実労働時間にもとづき賃金を支払う必要があります。 平成23年10月の裁判例では、「情報処理システムの分析・設計の業務」に従事するいわゆるSEの業務のみなし労働時間の適用の有効性について争われています。行政解釈でこの業務は、機械構成の決定や問題点の発見・改善などをおこなうもので、単にプログラム設計をおこなうプログラマーなどは含まれないとしています。この事件で労働者は、プログラミングから営業まで対象業務以外の業務にも従事していたため、みなし労働時間の適用が認められず、会社に未払い残業代の支払いが命じられています。このように、対象業務と対象以外の業務が混在している場合も、この制度の適用はできないのです。

○時間外手当は支払わなくていいの?

みなし労働時間については、その業務において平均的な業務遂行に必要な1日あたりの時間を定めるものとされています。

時々、裁量労働制は残業代のいらない制度と思われている人もいますが、そうではありません。みなし労働時間が法定労働時間8時間を超える場合、やはり残業代を支払う必要があります。

しかし、せっかく裁量労働制を導入するのですから、併せて月々固定的な残業代を支払うことで給与計算も簡素化したいという会社が多いでしょう。この場合も、みなし労働時間が日を単位として定められているのですから、少なくとも

「時間単価×所定労働日数の多い月の日数 ×(みなし労働時間−法定労働時間)×1.25

を上回るよう支払う必要があるのです。

  
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