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社員が車での配達業務中に事故を起こしてケガをしました。事故の原因は社員の信号無視だといいます。このような場合でも労災保険から給付は受けられるのでしょうか?
信号無視など法令違反が事故の原因となった場合でも労災保険の給付は受けられます。ただし、給付額が減額されることがあります。具体的には休業補償給付と障害補償給付について30%のカットとなります。
労災保険では、基本的に本人の過失は問われません。業務上の傷病かどうかが判断の基準になるからです。 例えば、マニュアルとは違う操作方法で作業してケガをしたとか、上司の指示を無視して保護具を付けていなかったためにケガをしたというときでも、労災保険の給付を受けることができます。
労働者が会社を相手に損害賠償請求をする場合など民事訴訟においては、会社と労働者の過失割合が問題となり、上記のように労働者にも過失があった場合は損害額が減額される可能性もありますが、労災保険では労働者の過失は問われないのです。
ただし、労災保険においても、次の場合は支給が制限されます。
[1]の場合は、一切の保険給付がおこなわれません。例えば、労災給付をもらうためにわざと高所から飛び降りて骨折した場合などが考えられます。ただし、業務上の精神疾患にかかり、正常な判断ができずに自殺に至った場合は例外です。
[2]の場合は、給付額がカットされます。[1]のように労災事故そのものを故意に起こしたわけではないが、事故発生の直接の原因となった行為が「故意の犯罪行為または重大な過失」であった場合がこれにあたります。
具体的には、「労働基準法や鉱山保安法、道路交通法などの法令上の危険防止に関する規定で罰則の付されているものに違反すると認められる場合」とされています。
ご質問のように「信号無視」で事故を起こした場合や、踏み切りをくぐって事故にあった場合、居眠り運転などが考えられます。スピード違反による事故も程度によっては給付額がカットされる可能性があります。
「飲酒運転」による事故も[2]にあたり給付額がカットされるでしょう。ただし、通勤途中の「泥酔運転」は給付額のカットでは済みません。通勤災害において「通勤」とは、「就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法により往復すること」と定義されており、泥酔運転は「合理的な方法」とは認められないため、そもそも労災保険では「通勤」とならないからです。この場合、労災の対象とならず、一切の給付がおこなわれません。
[2]の場合の給付額カットは休業給付(休業中の所得を補うもの)と障害給付についておこなわれます。保険給付の都度、給付額の30%相当額がカットされます(年金給付の場合は3年以内の期間に限ります)。
治療費や死亡した場合の遺族への補償はカットされません。
車同士の接触事故など相手のある事故は通常「第三者行為災害」として扱われ、相手の自賠責保険や自動車保険などから補償を受けるか労災保険から補償を受けるかを本人が選べることになっています。
自賠責保険などの方が手厚い補償を受けられることが多いため、通常は自賠責保険などから補償を受ける方がメリットが大きいでしょう。 しかし、こちらの過失が100%のときは自賠責保険などからの補償が受けられず、「第三者行為災害」には該当しなくなります。ご質問のように信号無視による事故の場合もこちらの過失が100%となる可能性があります。
ただし、このような場合でも労災請求をおこなった場合には労働基準監督署が事実関係の調査をおこなうため、「第三者行為災害届」の提出を求められることがあります。