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6ヶ月や1年などの雇用契約でも長期に渡って契約更新してきた場合は雇い止めが認められないことがあると聞きました。最後の契約更新時に「今回で最終契約とする」とし、本人のサインをもらえれば雇い止めが認められますか?
雇い止め(契約を更新しないこと)が認められないような状態になっている場合でも、労働者の合意があればいつでも労働契約を終了することができます。ただし、少しでも長く働きたいと望む労働者が、直ちに契約を打ち切られるのを恐れてやむを得ずサインしたと判断されると、雇い止めが認められない可能性もあります。
本来、有期契約は契約期間が満了すれば終了です。ただし、労働契約法第19条では次のいずれかに該当する場合、一方的な雇い止めは認められず、これまでと同じ契約内容で契約更新されたものとみなすとしています。これは過去の裁判例から確立した「雇い止め法理」を明文化したものです。
このように雇い止めが認められない状態であるときは、その雇い止めは実質的に「解雇」と同じであり、「解雇権濫用法理」が類推適用されることになります。つまり、「客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇い止めは無効と判断されるのです。この労働契約法第19条の適用を逃れるため、更新回数や通算雇用期間に制限を設け、それ以上雇用しないことを明確にしている会社もあります。
しかし、すでに長年有期契約を反復更新してきた会社はどうでしょうか?
行政解釈では、いったん労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いてしまえば、契約満了前に使用者が一方的に的に敵に契約更新の回数や年数の上限などを宣言したとしても、それだけで第19条の上の適用を逃れられるわけではない、つまり一方的な雇い止めが認められるわけではないとしています。
では、労働者が合意していれば雇い止めが可能なのでしょうか?
例えば、労働契約を更新する際、「今回の更新をもって最終とする」という文言を入れるケースが見受けられます。この場合、労働者と合意の上で終了すると言えるのでしょうか?
これについてはT社の裁判例があります。長年に渡って有期契約を更新してきたMさんに対する雇い止めの有効性が争われた事件です。T社はMさんとの契約更新時に「今回をもって最終契約とする」と記載した契約書を提示し、Mさんのサインをもらっていました。しかし、裁判官は「長年に渡ってT社に勤務してきたMさんにとって労働契約を終了させることは著しく不利益なことであるから、労働契約を終了させる合意があったと認めるためには、労働者の意思が明確でなければならない」とした上で、本件では「雇用継続を望む労働者にとっては、労働契約を直ちに打ち切られることを恐れて使用者の提示した条件での労働契約の締結に異議を述べることは困難」であるため、Mさんが今回で最終契約となることに本当に同意しているとは認めませんでした。
その上で、Mさんとの有期雇用契約は10年以上に渡って更新されており、業務の基幹的なもの(臨時的業務より基幹的業務の方が雇い止めが認められにくい)であったことなどから、Mさんの雇い止めには解雇権濫用法理が類推適用されるとしています。
ただ、本件では、T社が経営難から合理化に取り組み、正社員を半数ほどまで減少させていること、団体交渉に応じたり就職のあっせんを提案していることなど手続き面を考慮すると、解雇権の濫用とまでは言えず、Mさんの雇い止めは有効とされました。
どちらのメリットを取るかは会社の考え次第でしょう。
結果的には、経営難や手続き面での対応が認められて雇い止めが有効となっていますが、逆に言えば、そうした事情がなければ「今回で最終契約」と記載した契約書にサインをもらっただけでは、長期勤続してきたMさんの雇い止めは認められなかったということです。
このように有期契約であっても無期契約とみなされるような状態では、簡単に雇い止めできると考えてはなりません。結局、正社員などの解雇と同様に、経営努力や労使の話し合いに努めることが大切になってくるのです。