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先日新たに社員を採用したのですが、仕事の飲み込みが遅く、職場にも溶け込めない様子です。まだ試用期間中なので、今回は本採用を見送ろうと思いますが、何か注意すべきことはありますか?
本採用を見送ること、つまり試用期間中の解雇は本採用後よりはゆるやかに認められる傾向があるものの、合理的な理由がなければなりません。指導しても改善の余地がないほどの能力が不足しているとか、周囲との悶着が絶えず配置転換の見込みもないなどの理由です。注意・指導をおこなった記録も残しておいたほうがよいでしょう。
試用期間中といっても労働契約は成立しているため、本採用を見送るということは解雇するということです。 試用期間中はいつでも解雇できると誤解している会社が多いのですが、そうではありません。試用期間中は、本採用決定後よりは解雇が認められやすいというだけで、自由に解雇ができるわけではないのです。
多くの裁判例では、採用当初知ることができなかったような事実が試用期間中に判明し、その人を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することに客観的合理性が認められるような場合に限り、試用期間中の解雇が認められるとしています。過去の裁判例から具体的なケースを見ていきましょう。
試用期間中の解雇が認められたケースとしては、周囲と悶着が絶えなかった等の労働者の行為が、就業規則で解雇事由の一つとして挙げている「就業態度が著しく不良で他に配置転換の見込みがないと認めたとき」に該当するとして解雇が有効とされた例があります。
他に、比較的平易な業務においてミスを繰り返すことから試用期間を延長し、その期間を含めて4ヶ月に渡り指導教育をしたものの、その後も単純な仕事についてミスが続いたため解雇したという例で認められています。
一方、認められなかったケースとしては、会長に声を出して挨拶をしなかったという解雇理由が社会通念上相当性を欠くとされた例があります。また、ノーネクタイ等だったことを理由として試用期間中に解雇された私立教員の例では、本人に反省すべき点があったとしても、一度も注意・指導を与えることなく突如解雇したのは権利の濫用であると判断されました。
判断のポイントは、指導・教育を十分におこなったか(改善の余地があるかどうか)という点です。 入社してすぐに使用者の求めるレベルに達しない場合でも、そのまま雇用を継続すれば改善する可能性が高いと考えられる場合は、試用期間中の解雇が認められないことが多いのです。
試用期間中に問題だと感じることがあったのなら、会社はその都度、注意・指導をおこなわなければなりません。
ここで、もう一つの裁判例をご紹介しましょう。獣医師の試用期間満了による解雇が無効とされた事件です。 請求金額を間違ったりカルテの記載不備を繰り返すなどの能力不足があり、会社は都度注意していたと主張しましたが、具体的にいつどのように注意したのかは証拠関係から明確ではなく、裁判所の判断では「不注意の域を出ない」と重視されませんでした。注意・指導をおこなった場合は、その記録を残しておくことも必要でしょう。
有期契約なら期間満了により雇用契約を終了できると考え、まず有期契約を結んで、その期間に適性判断をおこなった後、問題がなければ本採用するという方法をとる会社もありますが、この方法についても注意が必要です。有期契約であっても、それが実質的に無期雇用を前提とした試用期間と解される場合は、通常の試用期間と同様の取扱いになるとした裁判例もあります。
ですから、有期雇用で適性をみる場合でも、客観的合理性が認められる場合でなければ、期間満了というだけで雇用を終了させることはできない場合もあるのです。
試用期間中に解雇をおこなう場合でも、30日以上前の解雇予告(または解雇予告手当)は必要です。ただし、試用開始から14日以内であれば解雇予告の手続きは不要とされています。