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仕事のストレスでうつ病になり、労災給付を受けながら休職している社員がいます。休み始めて年以上になりますが、まだ復職できそうにありません。業務上の傷病で休んでいる間は解雇できないと聞きましたが、このままいつまでも解雇できないのでしょうか?
3年を経過しても治らない場合は、打切補償を支払って解雇することが考えられます。ただし、打切補償による解雇が認められないケースも出てきたため、慎重な対応が必要です。
労働基準法では、業務災害によって社員が傷病などを負ったとき、使用者が「療養補償」「休業補償」「遺族補償」といった一連の補償をしなければならないことを定めています。
労働者がこの補償を確実に受けられるようにしたのが労災保険で、労災保険から「療養補償給付」などの給付が行われる場合、使用者は労働基準法の災害補償責任を免除されます。つまり、本来は使用者が行うべき療養補償などの支給を政府が代わりに行う仕組みになっているのです。
そのため業務災害が起きたら、通常は労災申請して給付を受け、使用者が労働基準法上の補償を行うことはほとんどありません。
ここで注意したいのが第81条の冒頭「療養補償を受ける労働者が」という点です。労働基準法に基づき使用者が治療費を補償するのが「療養補償」、労災から治療費として支給されるのは「療養補償給付」。第81条では「療養補償」と言っています。先程、通常は労災給付の方を受け、使用者が補償を行うことはほとんどないと説明しました。では、労災から「療養補償給付」を受けていて事業主から労働基準法上の「療養補償」を受けていない場合は、3年経過後打切補償により解雇することはできないのでしょうか?
この点について、これまでは、労災給付は使用者の補償を代行するものですから、「療養補償」は「療養補償給付」と読み替えても良いと考えられていました。しかし、平成24年9月28日に出た地裁判決および平成25年7月10日に出た高裁判決により、この考え方は否定されています。
判決では、業務上の疾病により労災給付を受けて3年以上休職していた大学職員に対して、打切補償を支払って行った解雇が無効とされました。打切補償は療養補償の長期化による使用者の負担を軽減する趣旨のものであるから、労使の療養補償給付を受けている場合は負担軽減を考慮する必要ないなどの理由からです。
この判決は今後、業務上の傷病による長期休職者の取り扱いに大きく影響するでしょう。 ちなみに、もう一つ、業務上傷病による休業中でも解雇できる場合があります。3年経過日に労災保険の「傷病補償年金」を受けている場合は打切補償を支払ったものとみなされ、解雇制限が解除されるというものです。ただし、これは傷病等級1〜3級に該当する場合にのみ支給されるものなので、該当するケースは限られるでしょう。